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ball 甘やかされて育つと挫折しやすくなる理由 ball



 「甘やかされて育つと、ちょっとしたことでくじけやすい」というのは、定説になっています。
 たとえば、ずっと優等生だった子供が、大学受験で失敗すると、ひどい状態になったりします。
 社会人でも同じことです。
 たとえば、有名大学を卒業して有名企業に就職。ここまでは順風満帆なのですが、ちょっとした仕事の失敗が原因で、会社に通うことさえできなくなってしまいます。
 よくあるパターンです。

 このような人たちの生育環境を見ると、親の社会的地位が高く、幼少期から何不自由なく育っていて非常に恵まれている、というのもお決まりのパターンです。
 そして、「恵まれた家庭環境のなかで甘やかされて育つと、傷つくことがないため、ちょっとしたことで挫折して、なにもできないようになってしまう」
 これが、一般的な知識人と言われている人たちの、お決まりの意見です。

 しかし、本当にそうなのでしょうか。
 私は、そのように考えていません。
 なぜなら、恵まれた家庭環境で育った人の方が、恵まれない家庭環境で育った人よりも、精神面でしっかりしていることの方が、はるかに多いと思うからです。

 たとえば、抑うつ状態や引きこもり、自傷行為、犯罪などの反社会的行動(このような行動をひとまとめにして「社会的不適応」などと呼びます)を起こす主な要因は、「機能不全家庭」や幼少期の「外傷体験」です。

 「機能不全家庭」というのは、子供の生育環境として、必要な機能を持たない家庭のことです。
 たとえば、親がアルコール依存症だったり、浮気を繰り返して家に寄りつかなかったり、自分の神経症的心理のせいで子供に八つ当たりしたり、冷酷な態度をとったり、矛盾を押しつけたりなど、さまざまな原因があります(このような親の問題行動につきましては、当サイトのメインコンテンツの1つ 「サイストリー」の第2章 5.親への憎しみで詳しく解説しています。ぜひご覧ください)。

 どの場合でも共通しているのは、子供が子供らしく振る舞えないということです。
 子供らしく振る舞うことが許されない子供は、子供らしい感情や思考を「抑圧」しなければなりません。いわゆる「アダルト・チルドレン」ですね。
 また、そのとき「抑圧」された子供らしい感情や思考は、大人になったときの「インナー・チャイルド」となるわけです。

 「外傷体験」とは、心身に、さまざまな傷を負わされる体験です。
 特に、幼少期に親から受けたさまざまな虐待は、もっとも重い「外傷体験」になります
 この「外傷体験」が原因で起こる心の異常の代表は、「PTSD」(外傷後ストレス障害)「特定の恐怖症」「身体表現性障害」といったさまざまな「神経症」「境界性人格障害」「自己愛性人格障害」などの「人格障害」「解離性障害」「解離性同一性障害」(多重人格)などです。

 幼少期の「外傷体験」は、子供にとって、非常に危機的な状況です。
 したがって、その後の精神面でのケアがしっかり行われていないと、複雑な「抑圧」、「否認」と呼ばれる現実の拒否、人格の分裂などが起きる場合が多く、その後の人生に、大きな影響を及ぼすことになってしまいます。

 さて、最初の話しに戻しましょう。
 「恵まれた家庭環境のなかで甘やかされて育つと、傷つくことがないため、ちょっとしたことで挫折して、なにもできないようになってしまう」というお決まりの意見は、正しいのでしょうか。

 恵まれた家庭環境というのは、家庭としてきちんと機能していて、子供が子供らしさを発揮でき、両親などの保護者が子供に愛情を注いでいたということです。
 こんな環境で育った子供が、どうして挫折しやすくなるのでしょう。
 もちろん、そんなはずはありませんね。

 また、「傷つくことがない」ということが、どうして挫折しやすさ、つまり精神的な弱さと結びつくのでしょう。
 心の問題となるのは、「外傷体験」の例でもわかるように、「傷ついた体験」です。
 やっぱりおかしいですね。

 どうも、恵まれた家庭環境というものに対する「劣等感」「嫉妬心」が働いているようです。きっと、そういう生育環境になかった人たちのゆがんだ見方が、強く反映されているのでしょう。

 実際、挫折しやすいという面で、問題となるのは、「甘やかされた」という部分だけだと思います。
 では、「甘やかされた」というのは、実際にはどんなことなのでしょう。
 それについて考えてみましょう。

 どんなに恵まれた家庭環境にあった場合でも、人間というのは、成長段階で、必然的に何度も傷つくことになります。
 幼少期の発達段階について、ちょっと考えてみましょう。
 生まれてから乳児のあいだは、すべての欲求に対して、親がそれを満たすような状況が続きます。いわゆる「全能感」の時代ですね。
 その後に、みずから話したり動き回ることによって、外界や他者との関係を築いていきます。

 乳児期までは、母子一体として、親によってかなえられていた欲求も、他者(親も含みます)との関係のなかで、かなえられないことがだんだんと出てきます。
 自分の欲求がかなえられないとき、必然的に心が傷つきます。
 その後の成長によって、行動範囲が広がり、身の回りの他者の数は、どんどん増えていきます。そして、自分の思い通りにならないことも、比例して増えてくるようになります。
 心が傷つく機会が、どんどん増えてくるわけですね。

 しかし、人間には、自分自身の傷ついた心を癒す方法が備わっています。
 泣いたりわめいたりといった感情表出や、ゆったりとした思考です。
 こんなことを繰り返すうちに、傷ついた心を自分自身で癒す方法(最終的には言葉による思考)を完成させていきます「成長する」というわけです。

 この「成長」の段階で、親の存在は、とても大きな役割を果たします。

 子供自身にとって一番いい方法は、傷ついた心を、多少時間がかかっても、自分自身の力で解決していくことです。
 しかし、言葉が発達していない子供にとって、自力での解決が難しいことも、よく起こります。

 そんなとき親は、子供と話し合ったり、アドバイスしたりします。ときには、そっとしておいてあげるのも必要でしょう。そして、子供が子供自身の力で、その問題を解決していく過程を、「共感」を持って見守り続けます。
 これが理想的な親の姿であり、家庭環境です。
 子供にとって、なにをしてあげるのが一番いいのか、よく考えている親なら、きっとこうすると思います。

 しかし、親が神経症的な無意識的「葛藤」を持っていたとしたら、話は違ってきます。
 特に子供を甘やかす親というのは、幼少期の「抑圧」された「甘えたい」という感情が原因になっていると考えられます。
 子供が何かのことで失敗したり、他者との関係で心が傷ついたとき、このタイプの親は、「かわいそう」と感じ、甘やかしてしまいます。
(「かわいそう」と感じて甘やかす親の心理につきましては、この前のコラム、「子供に「かわいそう」と言うのは精神的な虐待」で、詳しく説明しています。ご参照ください)

 このような親は、子供自身が心の傷を癒す、言いかえれば「成長する」機会を奪っているわけですね。
 結局、甘やかされた子供というのは、傷ついた心を自分自身で癒せないまま、ほかのことに意識を向けさせられ、表面的に忘れさせられてしまうのです。

 たとえば、運動会などで大きな失敗をした子供に対して、親は、どんな対応をするでしょうか。

 理想的な親なら、失敗の原因について、落ち着いていろいろと話し合うでしょう。さらに、失敗を今後に生かすような思考方法を教えることでしょう。
 このような親の対応があれば、子供は自分の失敗という事実を正面から受けいれることができます。そして、心の傷が癒され、失敗を教訓として、大きく成長できるはずです。

 ところが、甘やかすタイプの親は、失敗して落ち込んでいる子供に対して、失敗という事実を忘れさせるような対応をします。
 子供が喜びそうなおもちゃを買ってあげたり、どこかへつれて行ったりして、子供の気をそらしてしまうのです。
 失敗して傷ついた心は、そのまま奥の方へに押し込まれることになります。「抑圧」ですね。

 このように、甘やかされて育った子供には、癒されないまま残った心の傷がたくさんあると考えられます。
 つまり、甘やかされて育った子供は、傷ついたことがないのではなく、心の中に癒されない傷が大量にあるというわけです。

 この心の傷は、同じような境遇に陥ったとき、心の奥で暴れ出します。そして、無意識の「強い葛藤状態」が始まってしまいます。
(「強い葛藤状態」につきましては、この前のコラム、「神経症と不安障害について」で、詳しく説明しています。ご参照ください)
 「強い葛藤状態」が始まると、ひどく落ち込んだり、なにもできなくなってしまったりします。さらに、その状態が長引くと、「抑うつ状態」となり、最悪の場合、「自殺」ということにもつながってきます。

 「恵まれた家庭環境のなかで甘やかされて育つと、傷つくことがないため、ちょっとしたことで挫折して、なにもできないようになってしまう」というお決まりの意見の無意味さが、おわかりいただけたでしょうか。

 本当の意味で「恵まれた家庭環境」というのは、神経症的心理を持たない親が、しっかりと子育てをしていく環境のことです。
 決して、経済的に恵まれているとか、親の社会的地位が高いとかいうことではありません。

 また、甘やかされて育った人は、「傷ついた経験がないから、ちょっとしたことで挫折しやすい」のではなく、「癒されない心の傷を大量に持っているからこそ、挫折しやすい」のです。

 やっぱり、心の問題の原点は、「(癒されない)心の傷」なのです。






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