Psystory

ball (第3節の続き) (身体への影響、社会的・心理的ストレスの実体、記憶の伝染)



ストレスがもたらす弊害
 ストレスが身体にもたらす弊害について、少し詳しくお話ししておきましょう。

 まずストレスというのは、大脳辺縁系が五感を通して入ってきた情報を、危機的状況だと判断することから始まります。
 そして、前節でお話ししたとおり、大脳辺縁系の情動発生処理により、視床下部や脳幹網様体の興奮を呼び、神経ホルモンによって前頭前野の活性が落とされます。

 視床下部の興奮は、交感神経の興奮となり、動悸促進、血圧上昇、副腎髄質からのアドレナリンの分泌による血糖値上昇、呼吸数増加などを引き起こし、身体を緊急事態に備えた状態にします。

 この緊急事態に備えた状態というのは、まさに戦うか逃げるかの状態です。
 したがって、実際に戦ったり逃げたりして生命の危機的状況から逃れることができれば、大脳辺縁系や視床下部、脳幹網様体、交感神経の興奮は収まります。
 そして、前頭前野の活性が戻り、心拍数や血圧、血糖値、呼吸数も平常に戻ります。

 しかし、上司に対する嫌悪感のような場合、戦ったり逃げたりすることはできません。
 そのため、緊急事態に備えた状態が長く続くことになってしまいます。
 これは心身にとってかなりの負担となります。

 先ほどお話ししたように、脳内の神経細胞の多くの部分が活動しているため、大量のエネルギーが消費されます。
 また、活動し続けている神経細胞自体も疲労してしまい、活性が落ちてしまいます。

 動悸促進や呼吸数増加は、それぞれ心臓や肺、筋肉の負担となります。
 さらに血圧上昇や血糖値増加は血管に負担をかけ、動脈硬化の原因となります。

 こうしたことから、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳内出血や脳梗塞などの脳血管障害、糖尿病などを発病する危険性が高くなります。

 交感神経の興奮が続くと、それを抑えるために副交感神経も興奮し続けるようになります。
 そのため、副交感神経が支配している消化管の異常、たとえば胃潰瘍や十二指腸潰瘍、便秘や下痢などが起こりやすくなります。

 さらに視床下部は、ストレス発生時に、いくつかのホルモンを分泌します。
 そのなかの一つ、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)は、すぐ下にある脳下垂体に作用し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を促します。
 さらに、ACTHは、副腎皮質に作用し、副腎皮質ホルモンの分泌を促します。

 これらのホルモンは、ほかのホルモンとも協調しながら、ストレスを緩和する働きを持っています。
 しかし、副腎皮質ホルモンには有害な作用もあります。

 たとえば、消化を悪くしたり、生殖ホルモンや生長ホルモンの分泌を阻害したりします。
 免疫機能や脳にも障害を与えてしまいます。

 免疫機能に対する障害では、副腎皮質ホルモンがリンパ球や白血球に作用して、死滅させてしまうということが、まず挙げられます。
 また、リンパ球を作り出す臓器で、免疫機能の中心的役割を果たしている胸腺にも直接作用して、萎縮させてしまいます。

 そのせいで、リンパ球や白血球の数が減少し、結果として、さまざまな感染症にかかりやすくなってしまいます。
 リンパ球の一種であるナチュラル・キラー細胞(NK細胞)の減少は深刻です。
 NK細胞は、体内の細胞がガン化したときにその細胞を殺す役割も担っています。
 したがって、NK細胞が少なくなると、ガンになる危険性が高まってしまうのです。

 脳の障害というのは、大脳辺縁系の一部である海馬に表れます。
 海馬は記憶処理で重要な働きをしている場所ですが、副腎皮質ホルモンの血中濃度が上昇すると、海馬の神経細胞が死滅してしまうのです。
 このことから、大脳辺縁系全体のバランスが崩れ、情緒不安定が起きると考えられています。

 ストレスが精神面に与える影響も無視できません。
 ストレス状態が長く続いていると、交感神経も副交感神経も機能が低下して、うつ状態が表れてきます。
 うつ状態になると、強い疲労感、食欲低下、仕事の能率低下、慢性的な睡眠欲求などの症状が表れてきます。

 それでも、たっぷりと睡眠を取ることができれば、比較的簡単に、この状態は解消します。
 ところが、疲労感が強くても、気が滅入ってきて眠れなくなることがあります。
 こうなると、食欲低下が著しく、体重も減少してきます。
 眠れないため疲労が蓄積して、やがては自責感にさいなまれ、死への願望が生じてきます。

 これがうつ病と呼ばれている状態です(うつ病の詳細につきましては、「うつ病との闘い方」をご参照ください)。

 また、典型的なうつ病までいかなくても、近年特に増えている無気力という状態に陥ることがあります。
 慢性のストレスにさらされ続けたため、なにもする気が起こらなくなり、惰性だけで生きているような状態です。

 このように、現在の三大死因であるガン、心臓病、脳内出血の発病にも、ストレスが関与しています。
 さらに、糖尿病などの成人病や自己免疫疾患、うつ病などの心の病気までも、なんらかの形でストレスが関与しています。

ストレスと大脳辺縁系の記憶
 ストレスの原因は、大脳辺縁系が危機的状況だと判断することです。
 そこから情動が生まれ、さらに前頭前野(=意識)がその情動を無理に押さえ込もうとするために、ストレスが慢性化して、心身にさまざまな弊害が起きてくるわけです。

 ということは、大脳辺縁系の記憶が多い人と少ない人とでは、ストレスにさらされる確率が異なってくるはずです。
 また、ストレスが慢性化する確率も異なってくるので、心身の病気にかかる確率も変わってくるはずです。

 実際に、同じような境遇にいながら、病気がちな人と健康そのものというような人がいます。
 こうした人たちの違いを見ていると、大脳辺縁系の記憶の量によって、ストレスの総量が決まるということが納得できるでしょう。

 たとえば、職場での仕事上の失敗について考えてみましょう。
 失敗しても、どうして失敗したかを冷静に分析し、今後に生かそうと前向きに考えられる人は、たいしてストレスを感じません。
 失敗の後も、ふつうに仕事をこなしていくことができます。しかも、同じ失敗を繰り返しません。
 こういう人は、上司に失敗を注意されても、素直に聞き入れられるため、ストレスになりません。

 ところが、失敗したとわかった瞬間に、意気消沈して、なにもできなくなってしまう人もいます。
 暗く沈んでいて、見た目にも気の毒に思えます。

 こういう人は、かなり強いストレスを感じているはずで、さらに上司から注意されたりすると、もっと落ち込んでしまいます。そのままにしておくと、病気になってしまいそうです。

 なかには、失敗を最後まで認めようとしない人もいます。
 誰かほかの人に責任転嫁をしたり、失敗をごまかしたりします。上司に注意されたりすると、怒りをあらわに反抗することもあります。

 失敗を認めていないため、たいしてストレスを感じません。
 その後もふつうに仕事をこなしていきますが、同じような失敗を繰り返す傾向があります。そのときももちろん、失敗を認めません。

 さて、同じ仕事上の失敗なのに、どうしてこんなにも、その後の態度に違いが出てしまうのでしょうか。少し考えてみましょう。

 最初の例では、ほとんど情動が発生していません。
 大脳辺縁系が仕事の失敗を、危機的状況とは判断しなかったのです。

 きっと幼少期に、なにかで失敗しても、まわりの大人たちから暖かく励まされ続けたのでしょう。
 大脳辺縁系に、失敗に関する記憶が存在しなかったわけです。

 このような人は、ストレスを感じる機会が少なくて済み、心身ともに健康でいられる確率が高いでしょう。上司の注意に対しても、素直に受け入れられるため、ストレスが発生しにくいのです。
 もっとも理想的な例だと言えます。

 二番目の例では、明らかに情動発生処理が起きています。
 大脳辺縁系が、失敗することを危機的状況だと判断したのです。

 きっと幼少期の不幸な体験があったのでしょう。それが大脳辺縁系の記憶として残っているわけです。
 なにもできなくなってしまうのは、前頭前野の活性が落ちたままだからです。

 上司の注意に敏感なのも、幼少期の不幸な体験がよみがえってしまうからでしょう。
 しかし上司に対して、感情を表すわけにはいきません。そのため、前頭葉と大脳辺縁系がせめぎ合い、非常に苦しい状態に陥ってしまいます。
 そのままでは、ストレスが慢性化しやすく、心身を病む危険性が高いと言えるでしょう。

 最後の例でも、情動発生処理は起きています。つまり、幼少期の不幸な体験があったと考えられます。
 しかしこの場合、前頭前野が失敗を正当化しています。
 ほかの人に責任をなすりつけたり、ごまかしたりして、大脳辺縁系の判断を変えようとしているわけです。

 この手の人は、どこにでもいます。そして、まわりにいる人は、なにかとストレスにさらされることになってしまいます。
 もし、職場の上司がこの手のタイプだった場合には、部下はいつもイライラしていなくてはなりません。

 結局、この手の人は、自分が苦しむべきストレスを、ほかの人に肩代わりさせているのです。
 きっと、成長過程のなかで、そのような学習をしてしまったのでしょう。
 もしかしたら、誰かに責任をなすりつけられて、ひどい状況に追い込まれた経験があるのかもしれません。
 また、まわりの大人たちのなかに、責任逃れや責任転嫁ばかりしている人がいたのかもしれません。

 どちらにしても、この手の人はストレスに悩むことが少ないため、意外と会社などでは重宝されたりします。出世も早いかもしれません。

 現代のような高度産業化社会は、必然的に競争社会になります。その競争社会を勝ち抜いていくためには、ある程度こうした卑劣さ、冷酷さが適しているのかもしれません。

 そんな人の犠牲になって、背負わなくてもいいストレスまで背負ってしまう人がいます。
 そのために病気になったり、卑屈な人生を歩むことになったりします。
 しかし、これほど馬鹿げたことはありません。

 実は、こんな場合に犠牲者になってしまうのも、大脳辺縁系の記憶による不自由な心が原因だと考えられるのです。

社会的・心理的ストレスの実体
 大脳辺縁系の記憶が大量にあると、情動発生処理が起きやすくなります。
 したがって、突然、前頭前野の活性が落とされたり、原因不明の怒りや恐怖、不安に苦しめられたりすることが多くなります。

 また、大切な場面でも、不安の悪循環に陥りやすくなり、だんだん自分自身が信じられなくなります。
 こんなことを繰り返していれば、自然と、不自由な自分自身をさげすんだり否定したりするようになってしまうでしょう。

 この自己蔑視と自己否定というのは、非常に苦しい状態です。大脳辺縁系が、自分自身を危機的状況の原因だと判断して、情動発生処理をするからです。

 この情動は、簡単には解消できません。
 戦うか逃げるかの対象が自分自身なのですから、どうしようもないのです。自分とは戦うこともできませんし、自分から逃げることもできません。
 ストレスということで考えれば、延々と続く慢性的なストレスになるでしょう。

 うつ病のときの自責感も、もとをただせば、この自己蔑視と自己否定に行き着きます。
 なぜなら、うつ病患者の自殺は、自己蔑視と自己否定の情動を解消するために、自分自身を攻撃した結果だと考えられるからです。

 それでは、この自己蔑視と自己否定の情動を解消するには、いったいどうしたらいいのでしょうか。
 もちろん一番いい方法は、どうして自己蔑視や自己否定にいたってしまったのか、その原因をハッキリと究明することです。

 そのためには、いつから自己蔑視や自己否定を抱くようになったか、意識化する必要があります。
 さらに、その原因である大脳辺縁系の記憶も意識化していって、自由な心を獲得する必要もあります。もちろん、かなり大変な作業になります。

 自分自身を肯定できる、つまり自信を持てるようになることで、自己蔑視と自己否定の情動を解消することもできます。
 たとえ一つだけでも、ほかの人には絶対負けない、と言い切れるようなものができれば、大脳辺縁系の再評価が起きるからです。
 しかし、この方法も、そんなに簡単にできることではありません。

 卑劣ですが、誰かを嘲笑したり馬鹿にしたりして、自分自身に向かっている情動を、ほかの人に向けて発散するという方法もあります。
 しかし、他人をひどく傷つけてしまうため、後々人間関係で苦しむことになってしまいます。

 やはり一番簡単な方法は、抑圧することでしょう。
 前頭前野(=意識)が自己蔑視や自己否定の原因となるような自分自身はいなかったと、無視または否定するのです。そうして、大脳辺縁系の情動発生処理を止めさせるのです。

 しかし抑圧という方法は、非常に危険でもあります。
 本来は、大脳辺縁系が危機的状況だと判断したときには、戦うか逃げるかのように、その危機的状況を回避する行動が起こされます。
 ところが、自己蔑視や自己否定を抑圧していると、危機的状況を自分自身に対する攻撃だととらえて、肯定してしまう可能性があるからです。

 たとえば、自分に関係ないはずの失敗を責任転嫁された場合、それを自分自身に対する攻撃だととらえて、肯定してしまったりします。
 本来は、自己弁護しなければならない状況なのに、その必要がないように感じてしまうのです。

 こうして、ほかの人のストレスまでも引き受けて、慢性的なストレスに悩まされることになるわけです。
 このような人もどこにでもいて、責任転嫁ばかりしている人の格好の餌食となっています。

 大脳辺縁系の記憶から生まれたストレスは、自分自身やほかの誰かを傷つけなくては収まりにくいものです。
 したがって、会社などの組織や家族などの集団では、結局誰かがストレスを背負わされることになってしまいます。

 これが、心身を蝕んでしまうような、悪質な社会的・心理的ストレスの実体なのです。

 実は、幼少期の不幸な体験というのも、ここに本当の原因があります。
 たとえば、親や教師が自己蔑視や自己否定を抑圧していた場合、そのストレスを子供に向けて発散してしまうことがあります。
 それが、子供に対する嘲笑やわざとらしい失望のため息になるわけです。

 現在、社会問題として深刻化しているいじめも同様です。
 いじめの加害者となるような人は、自己蔑視と自己否定から生まれたストレスを、ほかの誰かを嘲笑したり侮蔑したり、または暴力で攻撃したりすることで、発散していると考えられます。
 結局、いじめの被害者は、他人の自己蔑視と自己否定から生まれたストレスを、引き受けさせられているわけです。

大脳辺縁系の記憶の伝染
 さて、大脳辺縁系の記憶から生まれたストレスは、ほかの人に向けて発散されたり、責任転嫁されたりすると、その相手に移っていくことになります。
 そして、ストレスを引き受けさせられた人は、そのストレスのために新たな危機的状況に陥ります。
 そうなると当然、大脳辺縁系の記憶が増えやすくなります。

 このように考えてくると、私たちから自由を奪う大脳辺縁系の記憶は、人間関係を通じて伝染すると解釈することもできます。

 さらには、ストレスというのは、大脳辺縁系の記憶を伝染させるための、咳やくしゃみと同じような、一つの症状だと考えることもできるでしょう。

 そうなると、症状としてのストレスに対抗するためのさまざまな方法は、あくまで対症療法にすぎないということになります。
 それに対して、大脳辺縁系の記憶を意識化により消滅させていく精神分析は、明らかに原因療法だと言えます。

 一応、対症療法原因療法について、簡単に説明しておきましょう。

 対症療法とは、病気を根本から治すのではなく、病気の症状を緩和させて体力の温存を図る治療法です。
 たとえば、発熱には解熱剤、痛みには鎮痛剤というように症状を緩和させるだけで、発熱や痛みの原因については治療しないという治療法です。

 原因療法とは、病気の原因そのものに対して治療を施すものです。
 たとえば、細菌の感染症では、抗生物質を使って細菌を死滅させます。さまざまな腫瘍では、手術で腫瘍を切り取ったり、放射線を当てて消滅させたりします。

 結局、ストレスから本当の意味で自由になるためには、大脳辺縁系の記憶そのものを消滅させていく原因療法としての精神分析が、もっとも優れた方法だということになります。
 ところが、何度もお話ししたように、精神分析には、膨大な時間が必要です。

 でも、ご安心ください。サイストリーの技法を使えば、比較的簡単に、短期間で大脳辺縁系の記憶の意識化が可能になります。
 したがって、ストレスの発生そのものを激減させることができるわけです。
 心と体の健康法の意義は、ここにあります。

 この節では、ストレスを中心にお話ししました。今度は偽りの歴史について、お話しすることにしましょう。






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