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ball 第1節 心理療法からの発想 (カウンセリング、フロイト、ユング、ロジャーズ、行動療法)



カウンセラー・心理療法家・精神科医・心療内科医の違いとは
 現在は非常にストレスの多い時代です。
 そのせいか、カウンセラーや心理療法家、精神科医、心療内科医など、心の専門家を訪れる人たちが急増しています。

 また、そうした背景から、カウンセラーや心理療法家を職業として活躍しようと考える人も増えています。

 さて、よく聞く名前ですが、カウンセラーと心理療法家、精神科医、心療内科医の違いをご存じでしょうか。
 なんとなくわかるけれども、ハッキリとはわからない、という人が多いのではないでしょうか。

 それは、ある意味仕方のないことなのです。
 その理由について、ここで簡単にお話ししておきましょう。

 まず、カウンセラーですが、当然といえば当然ですが、カウンセリングを行う人のことを指します。
 カウンセリングというのは、最初は、職業指導や教育指導などで、相談に訪れた人の問題点を見つけ出し、適切な指導を与えて、一緒に問題を解決していくことを指していました。

 次の心理療法家というのは、最初は、精神分析などの心理療法を行う医師のことを指していました。
 ここでいう心理療法とは、薬物療法や手術療法などの物理的治療ではなく、精神的な影響力だけを使う治療法という意味です。

 医療機関で使われる精神療法という言葉も、心理療法と同じ意味です(精神療法、心理療法、カウンセリングにつきましては、当サイトのコンテンツである「うつ病との闘い方」のなかの「精神療法の種類と一般精神療法・簡易精神療法」のページで詳しく解説しています)。

 やがて、医師ではない、心理療法だけを専門的に行う心理療法家が出てきました。
 その一人であるアメリカのロジャーズが、カウンセリングと心理療法を融合し、カウンセリングに新しい意味を持たせたのです。

 その後、ロジャーズの方法論は広く受け入れられ、実質的にカウンセリングと心理療法の区別がなくなりました。

 三番目の精神科医ですが、精神科医とは、国家資格である医師免許を持っていて、心の病気の治療を行う医師のことを指します。
 心理療法だけでなく、投薬などの医学的な治療も行います。

 カウンセラー(心理療法家)は、ふつう医師免許を持っていませんから、その意味では、一線を画していると言ってもいいでしょう。

 最後の心療内科医ですが、こちらは、もともと内科領域の病気のなかで、心理療法が必要だと考えられる病気の治療をする医師のことを指していました。
 内科医が心療内科医となる場合もありますし、精神科医がなる場合もあります。

 現代では、精神科領域の病気の治療も行うようになってきて、区別があいまいになってきつつあります。

 こうした人たちが行う心理療法には、たくさんの種類があります。
 その主な流派を挙げると、フロイト派、ユング派、ロジャーズ派、行動療法といったところでしょう。
 このうちの行動療法以外には、精神分析の方法論が利用されています。

フロイト派の心理療法
 まずフロイト派についてお話ししましょう。
 フロイトの考え方は、前章の第1節でお話ししたとおり、心の奥にある抑圧や葛藤が、神経症などのさまざまな問題を引き起こすというものです。

 したがって、その抑圧や葛藤を意識化することが、主な治療の目的になります。
 その方法として、フロイト派では、「解釈」するということを非常に重要視します。

 来談者の心のなかにある抑圧や葛藤は、夢や自由連想のなかに象徴的に表れます。
 それを心理療法家が適切に解釈し、来談者がその解釈から自由連想を広げていきます。
 さらに必要であれば、心理療法家はその内容を解釈します。

 そうしたことを繰り返していくうちに、抑圧や葛藤の内容が、徐々に明らかにされていくというわけです。

ユング派の心理療法
 次にユング派ですが、少し詳しい説明が必要でしょう。
 ユングは一時期フロイトの下にいて、一緒に精神分析について研究していました。

 しかし、心の深層にある創造力の解釈について、フロイトと対立するようになり、やがてはフロイトの下を去りました。
 その後は一人で研究を続け、独自の分析心理学を築き上げました。

 ユングは、心の深層には、神話的な創造力があると考えました。
 そして、神話的な創造力が強く動き出したとき、うまく表出できないと、さまざまな人生上の問題として表れてくると解釈しました。
 それを逆転の発想でとらえると、人生上の問題が起きたときこそ、人生の創造のチャンスであると言うこともできます。

 ユング派の心理療法家は、その神話的な創造力をうまく表出させることを目標とします。
 そのため、来談者が夢や自由連想を語るところはフロイト派と同じですが、ほとんど解釈はしません。
 来談者自身が夢や自由連想について、深い自己洞察にいたるようにし向けるのです。

 そして、来談者が心の奥深くで強く動き出している創造力を使って、人生を創造していく過程を見守り続けます。
 こうしたユング派の心理療法の特徴が、もっともよく表れているのは、箱庭療法でしょう。

箱庭療法と守られた安全な空間
 箱庭療法は、最初、イギリスの小児科医ローエンフェルトが、子供のための心理療法として考え出しました。
 それをユング派の心理療法家ドラ・カルフが砂遊び療法として発展させました。

 後に、日本の心理療法の第一人者であり、ユング派の心理療法家でもある河合隼雄氏が日本に持ち込み、箱庭療法と名づけたのです。
 非常に優れた方法だったため、ほかの流派の心理療法家たちにも、広く行われるようになりました。

 方法はいたって簡単で、治療対象の子供に、砂の入った浅い箱と建物や動物、植物、人間などのミニチュア模型を与え、「好きなものを作ってください」と言うだけです。
 与えられた子供は、その箱のなかに自由にミニチュア模型を配置したり、砂で山を作ったりして、自分自身の世界を表現していきます。

 このような方法を使うことによって、言葉が発達していない子供であっても、自分の内的世界を表現できるわけです。

 近年になってからは、箱庭療法が子供だけでなく、大人にも有効なことがわかってきました。
 自分の内面を箱庭に表現することで、心の奥深くで動き出している創造力を、そのまま創造活動として表出することができます。

 この創造活動が、人生上の問題を解決に導き、新たな人生を創造し、人間的な成長を促すと考えられるのです。
 こうした理由があるからこそ、箱庭療法は、大人にも有効になるのでしょう。

 新たな人生の創造や人間的成長には、どうしても古い自分自身の破壊という要素が入ってきます。
 神話的な創造力というのは、なにかを生み出すだけでなく、同時に、それまであった古い自分自身を破壊する作用も持っているからです。

 破壊という要素が強くなったとき、守られた安全な空間が必要になります。
 この守られた安全な空間がないと、古い自分自身が破壊されたまま、再構築できなくなってしまう危険があります。
 もし、そうなってしまうと、心がバラバラに引き裂かれたままの状態、つまり、精神分裂病のような状態に陥ってしまうのです。

 箱庭療法では、箱庭の枠が、守られた安全な空間の役割を果たすことができます。

 もちろん、心理療法家の存在自体が、守られた安全な空間となればいいのですが、心理療法家の経験や熟練度、来談者の年齢や問題の大きさなどの要因によって、なかなか難しい場合もあります。
 そんな場合には、箱庭療法が特に有効な手段になります。

ロジャーズ派の心理療法
 三番目のロジャーズ派です。
 ロジャーズも、最初はフロイトの精神分析を行っていました。

 しかし、ある来談者との会話がきっかけになって、「来談者は、来談者自身の問題がどこにあるのか知っている」と気づきました。
 そして、人間にはもともと成長する力があり、その力が妨げられないように心理療法家がし向けていけば、自分自身ですべての問題を解決していくことができる、という確信を持つにいたりました。

 やがてロジャーズは、みずから来談者中心カウンセリングと名づけた方法論を編み出します。
 このロジャーズの方法論が、今日のカウンセリングや心理療法に、もっとも強い影響を与えていると言われています。

 来談者中心カウンセリングでは、心理療法家は、指示や分析をしません。来談者自身が成長する力を発揮できるように、援助するだけです。その援助とは、来談者に対して「受容」と「共感」と「尊重」の態度を持ち続けることです。

 たとえば、来談者が幻覚や幻聴など、明らかに精神障害だと思えるような訴えをしてきたとしましょう。
 ロジャーズの方法論では、心理療法家は、来談者の話をその通りに受け取ります。
 来談者の体験を、すべて一つのリアリティとして受けとめるわけです。

 来談者が苦しみを表現した場合には、どんなふうに苦しいのかを理解しようとします。
 そして、その苦しみから逃れられる方法を考えながら来談者と接し続けます。
 来談者は、心理療法家のこのような態度に接し続けることで、「わかってもらえた」という強い心の支えを得ることができます。

 心理療法を受けに来る人たちは、「誰かに自分を理解してもらいたい」と強く望んでいます。
 それまで、まわりにいる人たちに「わかってもらえた」という実感が持てないため、苦しんでいると考えられるからです。
 したがって、心理療法家が来談者に「受容」と「共感」と「尊重」の態度で接し続けることが、一番の治療になるわけです。

 このような心理療法家の態度が心の支えとなって、結果的に来談者の抑圧や葛藤が意識化されてくるとも考えられます。
 そして、その状態こそ、箱庭療法のところでお話しした、「心理療法家の存在が、守られた安全な空間の役割を果たしている状態」だと言えるでしょう。

行動療法
 最後の行動療法です。
 行動療法は、最初、行動心理学に基づいた心理療法としてスタートしました。

 行動心理学とは、不確実で客観性に乏しい人間の内面的部分を無視して、あくまで外に表れる行動だけを研究する心理学です。

 しかし、そうした考え方に疑問を持つ研究者が増えてきて、認知心理学が生まれました。
 その後、認知心理学は、人間の内面的な部分を追求する心理学として、急速に発達しました。
 やがては、反目し合っていた行動心理学と認知心理学が歩み寄り、それぞれの成果をお互いに取り入れるようになりました。

 そうして生まれたのが、認知行動療法というわけです。
 したがって現在では、単に行動療法と言った場合でも、実際には認知行動療法を指すようになってきています。
 この認知行動療法については、前章の第4節でお話ししましたので、ここでは省略させていただきます。

 さて、ここまで心理療法についてお話ししてきましたが、対症療法である認知行動療法以外は、非常に長い治療期間が必要になってしまいます。
 つまり、心理療法がどうしても必要なほど大きな問題を抱えた人以外は、簡単には受けられないのです。
 それでは、どうしたら精神分析の方法論をうまく利用して、心身の病気の予防や、自由な心の獲得が可能になるのでしょうか。






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