Psystory

ball (第4節の続き) (恋愛は脳の活性を高める、さまざまな不幸の原因、心身症)



ふつうの恋愛は前頭前野の活性を高める
 ふつうの恋愛では、生命の大原則の大きな柱である種の保存というテーマがその根源にあります。
 したがって、性的に成熟する思春期以後は、そのテーマの実現のために相手を見つけ出すことが、人生の大きな目標となります。

 その目標を達成するためには、高度に発達した大脳新皮質の、すぐれた情報処理能力が一番頼りになるはずです。
 つまり、大脳新皮質、特に前頭前野の活性が高まった方が好都合なのです。

 実際、ふつうの恋愛では、恋の相手が見つかると、大脳辺縁系は、前頭前野の活性を高めるような情動発生処理をすることがわかっています。

 少し詳しくお話ししましょう。
 まず大脳辺縁系は、恋の相手が見つかったことにより、生命の大原則にとって好ましい状況が実現したと判断し、うれしさや楽しさといった情動を発生します。

 この大脳辺縁系の興奮は、視床下部や脳幹網様体に伝わります。
 そして、脳幹網様体から脳全体に伸びている神経線維の一つから、ドーパミンという神経ホルモンが分泌されます。

 ドーパミンは、アドレナリンやノルアドレナリンとほぼ同じ分子構造を持っている代表的な神経ホルモンです。
 しかし、その作用は快感であり、ほかの二つとはまったく逆の情動を生み出します。

 誰でも恋人ができたときには、人生がバラ色に彩られたように感じますが、これはドーパミンの快感作用によるものです。

 脳内の快感作用というと、すぐにエンケファリンエンドルフィンなどの脳内麻薬物質を思いつく方も多いかもしれません。なかでも最強と言われるβ−エンドルフィンについては、聞いたことがある方も多いでしょう。

 脳内麻薬物質というのは、主に肉体的苦痛時に、その苦痛を和らげるために、大量に分泌されるものです。

 しかし、脳内麻薬物質そのものに快感作用があるとは考えられていません。
 ドーパミンと共同して、ドーパミンの快感作用を強めるように作用すると考えられています。
 最強のβ−エンドルフィンが分泌された場合、ドーパミンの作用が10倍から20倍にもなると言われています。

 さて、大脳新皮質、特に前頭前野は、このドーパミンの作用により、活性が高まることが知られています。具体的にいうと、思考能力や創造力が高まり、実力を充分に発揮できるようになります。
 つまり、前頭前野にとって、もっとも好ましい状態になるわけです。

 恋人がいなくて寂しい生活を送っていた人が、恋人ができたとたんに生き生きとしてくるというのは、よくあることです。
 そんな場合には、仕事も以前より集中できるようになるでしょうし、当然実績も上がりやすくなるでしょう。また、遊びの方でも、以前よりずっと楽しめるようになって、生活全体が充実してきたと感じるでしょう。

 これが、ふつうの恋愛なのです。

 人間を含めた高等哺乳類では、大脳新皮質、特に前頭前野が著しく発達しています。
 その理由について、さまざまな考えが提唱されていますが、その一つとして、種の保存のための性選択を挙げる学者はたくさんいます。

 性選択というのは、種の保存という大きなテーマのために、よりすぐれた配偶者を見つけ出し、競争して獲得することを指します。
 つまり、すぐれた配偶者を獲得することで、すぐれた子孫を残し、種の保存の可能性を高めようとするわけです。

 そうなると当然、より高度な情報処理能力を持っている方が、性選択にともなう競争を有利に行えます。そうした理由から、どんどん大脳新皮質が発達していき、さらにより高次の情報処理を行う前頭前野が発達していったと考えられるのです。

 つまり、恋愛をするに当たっては、大脳新皮質、なかでも前頭前野の活性が高まるはずなのです。
 その意味で、先ほどお話しした、恋愛にともなうドーパミンの分泌は、ごく自然な反応だと言えます。

真実の歴史は人生上の不幸を遠ざける
 ところが、「恋に落ちた」場合には、まったく逆に前頭前野の活性が落とされてしまいます。
 そのせいで、正常な思考ができなくなってしまい、家庭崩壊や人間関係の破綻、犯罪、詐欺など、さまざまな人生上の不幸につながってしまうのです。

 もし、危機的状況のときに助けてもらった体験を、真実の歴史としてすべて意識化していれば、恋愛によって前頭前野の活性が落とされるようなことはなくなるでしょう。
 したがって、恋に落ちたことが原因だと思われる、さまざまな人生上の不幸も避けることができるはずです。

 たとえば、家庭を持つ既婚者が、家庭を棄ててまで新たな恋愛に走るようなことは、かなり減少するでしょう。
 子供がいた場合には、最大の不幸を押しつけることになりますし、失うものがあまりにも大きいからです。

 また、せっかく結婚したのにすぐに離婚というのも、減少するはずです。
 結婚を決める段階で前頭前野の活性が高まっていれば、すぐに離婚するような相手とは、最初から結婚しないと考えられるからです。

 もっとも望ましい効果は、なんと言っても犯罪の激減です。
 前にもお話ししたとおり、犯罪の原因の大半は、愛情のもつれです。その愛情のもつれが起こりにくくなるのですから、犯罪の減少が期待できるというわけです。

恋愛以外でも大脳辺縁系の極端な判断は起きる
 さて、ここまでは、おもに男女の恋愛についてお話ししてきましたが、大脳辺縁系の「生命の大原則にとって、その人がもっとも大切だ」という極端な判断は、恋愛以外でも起こります。

 たとえば、会社の上司に対してこのような判断が起これば、仕事を最優先するような生活態度になります。こんな場合、上司にとっても、なんでも言いなりになってくれるかわいい部下に、高い評価を与えることもあります。

 しかし、現代のような競争社会では、単に便利な部下として扱って、割に合わない仕事ばかり押しつけるかもしれません。
 つまり、愚かなまでに慕ってくる部下を、自己本位な目的のために、利用できるだけ利用してやろうというわけです。

 例の大脳辺縁系の極端な判断は、ほかの人に騙されたり、利用されたりしやすい状況を作り上げてしまいます。
 そのせいで、財産をすべて奪われてしまったり、犯罪に手を染めて人生を台無しにしてしまったりということも、充分考えられます。

 詐欺師というのは、このような心の性質をうまく利用します。標的にした相手を、わざと危機的状況に陥れて、そこで親切さを装って助けたりします。

 そうすると、ほとんどの人が幼少期に危機的状況で助けてもらった体験を持つため、例の大脳辺縁系の極端な判断が起き、詐欺師を愚かなまでに慕うようになるわけです。

大脳辺縁系の極端な判断が望ましく見える場合
 大脳辺縁系の「生命の大原則にとって、その人がもっとも大切だ」という極端な判断がその根底にあったとしても、問題を起こさずに、かえって表面上は、望ましく見えるような場合があります。

 たとえば、祖父母を孫が強く慕っていたとしても、誰も悪いこととは思いませんし、実際、誰にも迷惑はかかりません。かえって、ほほえましく見えるだけでしょう。
 また、適齢期に達した独身のカップルが、同時に恋に落ちて結婚を決意したとしても、望ましいこととしか思えないでしょう。

 ところが、こんな場合でも、後々になってから、人生上の不幸につながってしまう可能性があると考えられます。
 その不幸の主なものは、もっとも大切だと判断した人との離別もっとも大切だと判断した人の裏切りです。

もっとも大切だと判断した人との離別
 もっとも大切だと判断した人との離別とは、死や引っ越しなどによって、それまで身近にいたもっとも大切だと判断した人と、永遠に会えなくなってしまうことです。

 たとえば、祖父母のことを「生命の大原則にとって、その人がもっとも大切だ」と判断していたのに、その祖父母が突然亡くなってしまったとしたら、どれほどひどいことになってしまうでしょう。

 このときの悲しみとつらさは、想像を絶するものがあります。しばらくは強烈な情動発生処理のため、なにも手につかなくなってしまうでしょう。
 その過酷なまでのストレスのせいで、心身を病んでしまうかもしれません。

 特に幼少期にこのようなことが起きると、悲惨な結果をもたらすことにもなります。
 たとえば、祖父母を強く慕っていた子供が、祖父母の突然の死によって、原因不明の高熱を出し続けるといったことは、比較的よく聞く話です。
 このような場合、治療方法がないため、対症療法で体力の回復を待つしかありません。
 最悪の場合、そのまま祖父母のあとを追うように、死んでしまうことさえあります。

 医療体制が整っていない昔の時代には、こうした悲劇が繰り返され、「故人が寂しがって、あの世に連れていってしまった」などと言われていました。

 これほど極端な例は少ないにしても、もっとも大切だと判断した人との離別という大変な危機的状況では、大脳辺縁系に記憶される情報に、強烈な情動が結びつくことになります。
 そのため、自己蔑視や自己否定にもつながりやすく、後々まで人生に悪影響を及ぼすことになりやすいのです。

もっとも大切だと判断した人の裏切り
 もっとも大切だと判断した人の裏切りとは、大脳辺縁系がもっとも大切だと判断した人が、助けてくれた人たちと同じように行動してくれないことを指します。
 これは、ある意味当然のことです。

 大脳辺縁系は、助けてくれた人たちと同じような特徴を持つ人は、いつでも助けてくれた人たちと同じように行動してくれると決めつけています。
 また、過去の危機的状況のときに助けてもらったのと同じような状況で、たまたま同じように助けてくれた人も、同様に決めつけてしまいます。

 だからこそ、「生命の大原則にとって、その人がもっとも大切だ」と判断するわけです。
 しかし、その判断の根拠は、すべて大脳辺縁系の記憶のなかにあります。もっとも大切だと判断した人自身を、実際に見ているわけではありません。
 その人を通して、過去に助けてくれた人たちを見ているのです。

 こうした理由から、もっとも大切だと判断した人の行動は、ことあるごとに裏切りだと見えてくるようになります。そうなると当然、大脳辺縁系は生命の大原則に反すると判断し、危機的状況としての情動発生処理をします。

 この場合の情動は、裏切られたのですから、最初は不安から始まって、すぐに怒りの情動になるでしょう。そうしてその人に、助けてくれた人たちと同じ行動を取らせようとします。

 しかし、こんな身勝手な要求が、簡単に受け入れられるはずはありません。
 結局は争いになりやすく、憎しみの情動が芽生えることにつながってきます。

 たとえば、出会った二人が同時に恋に落ちて電撃結婚した場合など、結婚後、すぐにこうした状況に陥りやすいと考えられます。そして、簡単に離婚というわけです。

 憎しみも一つの情動であり、ほかの怒りや悲しみと同じように、前頭前野の活性を落とします。そのため、大脳辺縁系の短絡的な思考が、そのまま行動に移されやすくなります。
 そうして起きた行動というのが、愛情がらみの犯罪です。

 また、争いになることを恐れたり、要求しても聞き入れてもらえそうもないとあきらめたりする人もあるでしょう。
そんな場合には、怒りを押さえ込むことになります。そうすると、今度は悲しみの情動に変わり、結局は、抑圧ということになりがちです。

大脳辺縁系が危機的状況を再現する
 このような状態になったとき、大脳辺縁系は、しばしば非常に馬鹿げた行動を起こします。過去の助けてもらったときの危機的状況を、再現しようとするのです。

 たとえば、過去の危機的状況が病気や怪我だった場合、同じように病気になったり怪我をしたりします。
 大脳辺縁系が起こすこうした行動は、前頭前野とは関係ないため、本人には、どうしてそうなるのか、まったくわかりません。

 そんな場合の病気の特徴をもっともよく表しているのが、自律神経失調症などの心身症(身体化表現、転換性障害、ヒステリーなどの身体表現性障害、解離性障害、心気障害など)でしょう。

 大脳辺縁系は、不快の情動発生処理によって、自律神経の中枢である視床下部に強い影響を与えることができます。このときストレスが発生するわけですが、このストレスを継続させることによって、自律神経を狂わせ、病気のような状態を作ることができます。

 こうして起きる心身症を、精神分析では、神経症の身体化表現(精神医学用語では、転換性障害、身体表現性障害、解離性障害、心気障害などが該当します)と呼びます。

 大脳辺縁系は、危機的状況を再現することによって、もっとも大切だと判断した人が、過去に助けてくれた人たちと同じように行動する、と決めつけているわけです。

 これでもその人が思い通りに行動してくれないと、第1章第3節でお話ししたように、ストレスの慢性化から、本当の病気にまで進行してしまうことにもなります。

 このように、表面上は望ましく見える場合であっても、大脳辺縁系の「生命の大原則にとって、その人がもっとも大切だ」という極端な判断は、後々になってから人生上の不幸につながってしまうことが多いのです。

 この節では、大脳辺縁系のなかにある、危機的状況のときに助けてくれた人たちの記憶について、恋愛から、さまざまな人間関係について、いろいろとお話ししてきました。

 いかがでしょうか。大脳辺縁系にある助けてくれた人たちの記憶が、本当にさまざまな人生上の不幸を私たちにもたらしてしまうということが、おわかりいただけたでしょうか。

 この、助けてくれた人たちの記憶というのも、もちろん危機的状況のときの記憶の一部です。
 したがって、サイストリーを実践すれば、こうしたさまざまな人生上の不幸を、未然に防ぐことが可能なのです。

 さて、人生上の不幸をもたらすものには、もう一つ重要な要素があります。親への憎しみです。それについて、次に詳しくお話ししましょう。






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