Psystory

ball 第5節 親への憎しみ (親の問題行動とその影響、苦手意識の正体、嫁と姑)



なぜ苦手意識が生じるのか
 誰でも、苦手な人というのはいるものです。
 苦手な人が近くにいるだけで気分が悪くなり、その人のことを避けようとする人もいます。
 しかし、たいていは、苦手な人のどこが嫌だとか、どうして避けようとするのか、明確な理由は思い浮かびません。

 苦手としている人がなにを話しても、どんな行動をしても、やたらに腹が立つという人もいます。
 そのせいで、どうしても喧嘩腰になってしまい、必要だとわかっている場合でも、良い人間関係が築けません。

 また、どういうわけか、苦手にしている人と一緒にいると、恐くて仕方がない、という人もいます。その人のどこが恐いのかハッキリとはわからないのですが、とにかく恐怖感が先に立ってしまうのです。

 それでも、自分の身の回りにいる人も同じように感じている場合には、そんなに問題にはならないでしょう。困るのは、自分以外の人が、その人をまったく苦手としない場合です。
 あまりにその人を苦手にしていると、自分一人だけ、浮いた存在になってしまうからです。

 このような場合、仲間を作ろうと懸命にその人の悪口を言いふらす人もいます。まわりの人も自分と同じように、その人を避けるようにし向けるのです。
 しかし、まわりの人の賛同が得られないと、かえって孤立を強めてしまうことにもなります。

 どちらにしても、この苦手意識というのは、本当に厄介なものです。
 その人の存在がどうしても受け入れられず、苦しむことになってしまうからです。

 この厄介な苦手意識とは、どうして起こるのでしょうか。また、克服するためには、いったいどうしたらいいのでしょうか。

 それについて、詳しくお話ししていきましょう。

 苦手意識というのは、大脳辺縁系が不快の情動発生処理をするために起こります。そのときの判断の根拠は、もちろん大脳辺縁系の記憶です。
 そのなかでも、親などの保護者が原因となった危機的状況のときの記憶が、一番大きな影響を与えていると考えられます。

親の八つ当たり・親の冷酷さ・親の非合理的行動・親の権威主義
 ほとんどの人は、幼少期から青年期までの長い期間を、親の保護の下で過ごします。したがって親は、その期間中、なによりも大切な存在になります。

 その親が怒った場合、一番大切な親から拒否されたわけですから、子供にとっては危機的状況になります。
 したがって、子供に対するというのは、子供の大脳辺縁系に対して行われると考えられます。

 これがうまくいくと、子供が親の躾に背こうとしたとき、大脳辺縁系が恐怖の情動発生処理をするようになります。子供の大脳辺縁系が、以前親に怒られたときの恐怖感を再現するわけです。
 こうして、躾が成立します。

 しかし、親自身の大脳辺縁系の記憶のせいで、問題行動を起こすことがあります。
 躾とはまったく関係ない場面で怒ったり、子供に対して、異常なまでにつらく当たったりしてしまうことです。

 少し詳しくお話ししましょう。
 親が忙しかったり疲れていたり、心配事やつらい出来事があったりしてストレスに悩まされているときなど、本来怒らなくてもいい場面で怒ってしまうことがあります。
 親の八つ当たりです。

 子供が親の助けを必要としているのに、面倒に感じて子供を無視し続ける親もいます。
 親の冷酷さです。

 親自身の突然の情動発生のために、子供に異常なまでにつらく当たってしまったり、子供が一生懸命やったことに対して嘲笑を浴びせてしまうことがあります。
 親の非合理的な行動です。

 弱い立場にある子供に対して、なにかと居丈高で高圧的にふるまう親がいます。
 親の権威主義です。

 ここで言う権威主義とは、強い立場にいる人に対しては、異常なまでにへりくだり、弱い立場にいる人に対しては、ひどく高圧的にふるまう態度のことです。いわゆる「弱いものいじめ」のことだと思っていただけばいいと思います。

 この親の八つ当たり親の冷酷さ親の非合理的な行動親の権威主義は、子供の大脳辺縁系に、不必要な記憶を植えつけてしまいます。

 親がこのような行動を取ってしまうのは、親自身が子供のとき、やはり自分の親に同じような仕打ちを受けたことが一番の原因だと考えられます。
 そのときの体験が意識化されないまま大脳辺縁系に残っているため、同じような行動を取ってしまうのです。

 なかには、親の八つ当たりは、そのときのストレスが原因であって、大脳辺縁系の記憶は関係ないはずだ、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、どんなにストレスに満ちた環境にいても、子供にだけはつらい思いをさせない、と頑張っている親がいるのも事実です。

 親の子供に対する態度というのは、生命の大原則の種の保存に関係してきます。したがって、子供に対する八つ当たりなどということは、本来あり得ないことなのです。

 ところが、大脳辺縁系にある個の保存に関する危機的状況のときの記憶が刺激された場合には、種の保存に反するような行動もあり得ます。個の保存種の保存の前提となるからです。
 子供に対する八つ当たりのような行動も、こうした理由で起こります。

 それは、親の冷酷さ親の非合理的な行動親の権威主義でも同じことです。
 すべては、大脳辺縁系にある個の保存に関する危機的状況のときの記憶が原因となって、種の保存に反するような行動が起きてしまうのです。

親から子への大脳辺縁系の記憶の伝染
 たとえば、子供が食事中に騒ぐと、ひどく怒り出す親がいます。親の非合理的な行動の典型的な例です。

 きっとこの親自身も、同じようにひどく怒られたのでしょう。そのときの記憶が大脳辺縁系にあるため、無意識的に、子供につらく当たってしまうのです。

 子供の方は、あまりにもひどい親の怒り方のせいで、反感や嫌悪、恐怖といった強い情動に支配されます。もちろん子供の大脳辺縁系は、そのときの状況を細かく記憶します。

 この大脳辺縁系の記憶は、ほかの家で食事をする機会があったり、テレビで一家団欒の楽しい情景を見たりして、よみがえることもあります。
 そんな場合、親に対する反感や嫌悪、恐怖の情動が発生することになります。

 しかし、絶対的な親に対して、そうした情動を持ち続けることは困難です。そのため、再び抑圧してしまうというのが、もっとも簡単な情動の解消法だと考えていいでしょう。

 なかには、そうした反感や嫌悪がつのってきて、「もっと楽しく食事をしたい。みんなで黙り込んで食べても、全然おいしくない」などと、親に対して鋭く指摘する子供もいるかもしれません。
 そこで親が幼少期の体験を思い出し、親自身の非合理的な行動に気づけば、もっとも理想的な解決法になります。

 しかし、多くの親は、子供の鋭い指摘によって大脳辺縁系の記憶を強く刺激され、以前にも増してひどく怒るだけでしょう。
 結局は、そこでまた子供の大脳辺縁系の記憶が増えるだけ、ということになってしまいがちです。

 このように、親から子へと大脳辺縁系の記憶が受け継がれることも、第1章第3節でお話しした、ストレスを介した大脳辺縁系の記憶の伝染の一つだと考えられます。

 もし、親自身が、幼少期の体験を充分に意識化していれば、子供にひどく怒り出すようなことはありません。どんなにひどく怒られた体験があったとしても、親自身の価値観どおりに子供と接するようになります。

 その価値観が「食事は多少騒がしくても、楽しく摂ったほうがいい」というものなら、その通りに子供に接するはずです。
 もちろんその場合でも、親自身が「食事は静かに摂ったほうがいい」という価値観を持っていれば、騒ぐ子供に注意することはあるでしょう。
 しかし、ひどく怒り出して、子供につらく当たるようなことはないはずです。

 ほとんどの人は、親に大脳辺縁系の記憶を伝染させられていて、そのすべてを意識化していないと考えられます。
 そのせいで、自分が親になったとき、やはり同じように、大脳辺縁系の記憶を子供に伝染させるような行動をしてしまうのです。

苦手意識の正体
 親に伝染させられた大脳辺縁系の記憶は、さまざまな人間関係にも、重大な影響を及ぼしてしまいます。

 親に伝染させられた大脳辺縁系の記憶には、親が怒ったときの表情や仕草、行動、言葉、雰囲気といった情報が入っています。もし、その情報と同じような特徴をいくつも持った人と出会った場合、大脳辺縁系は親と同じだと判断して、情動発生処理をします。

 親と一緒にいるときには、前頭前野は抑圧をかけますが、親以外の人と一緒にいるときには、抑圧をかける必要がなくなります。したがって、大脳辺縁系の情動発生処理が、そのまま反感や嫌悪、恐怖の情動として表れてしまうのです。

 こんなふうに考えることもできます。
 前頭前野は、一緒にいる人が親と同じような特徴をいくつも持っていたとしても、そのすぐれた情報処理能力のおかげで、正確に見分けることができます。
 ところが、大脳辺縁系には、それができません。親と同じだと判断してしまいます。

 この前頭前野と大脳辺縁系の情報処理能力の差が、一見不可思議な苦手意識を生み出していると考えることもできます。

 どちらにしても、本来は親に対する反感や嫌悪、恐怖の情動だったものを、全然関係ないはずの他人に対して感じてしまうということです。
 これが、多くの苦手意識の正体です。

世代間に不和が起こりやすい理由
 たとえば、目上の世代に対して、ハッキリした理由はなくても、反感や嫌悪、恐怖を感じるという人は、かなり多いはずです。
 こうしたことの背景には、親に対するさまざまな抑圧があると考えられます。

 きっと、上の世代の下の世代に対する態度というのは、親の子供に対する態度と共通するところが多いからでしょう。そのせいで、大脳辺縁系が不快の情動発生処理を起こしやすいのです。

 また、これとは逆に、上の世代の下の世代に対する理由のない反感というのもあると考えられます。それについて、お話ししましょう。

 ほとんどの親は、子供に対して強い愛情を持つものです。生命の大原則の種の保存に関係してくるからです。
 しかし、親から見た子供というのは、とても厄介な存在でもあります。

 子供というものは、親自身の忙しさや疲れなどのさまざまな事情を、ほとんど理解してくれません。親がいつでも世話をしてくれるものだと考えています。

 さらに現代では、子供を育て上げるまでに、莫大なお金がかかります。その金銭的な苦労も、相当なものでしょう。

 そんなに苦労して育てているというのに、反抗期には言いたい放題で、神経を逆なでされます。親の言うことも聞きません。
 これでは、子供に対して憎しみの感情を持っても当然のことかもしれません。

 子供が親を嫌うようになると、やはり親の方も危機的状況に陥ります。生命の大原則の種の保存に反するからです。
 そのことが原因で、親の大脳辺縁系の記憶が増えることも考えられます。

 特に、子供が親の注意を無視して病気になったり、怪我をした場合には、親もひどい危機的状況に陥ります。さらに、子供に対する強い怒りや憎しみの情動も発生します。

 しかし、親が子供に対する強い怒りや憎しみの情動を意識することは、やはり難しいでしょう。子供が親に対する同じような強い情動を意識しにくいのと同じです。
 そうして結局は、抑圧することになると考えられます。

 その抑圧は、下の世代に対する理由のない反感となって表れます。
 よく、年輩の人たちが、「近頃の若い者は」といった決まり文句から、下の世代に対するさまざまな反感を口にしますが、その背景には、このような抑圧があると考えられます。

 こうした世代間の不和の代表は、昔から仲が悪いことの代名詞のように言われてきた、嫁と姑の関係でしょう。

なぜ嫁と姑はいがみ合うのか
 嫁側からすれば、姑は結婚相手の母親なのですから、実母ととても近い存在になります。
 したがって、大脳辺縁系の記憶が刺激されやすくなり、実母に対する抑圧された反感や嫌悪、恐怖の情動が、抑圧されずに表れてきます。

 姑側にとっても、事情は同じです。嫁は子供の結婚相手なのですから、子供に対する抑圧された同じような情動が、抑圧されずに表れてきます。

 婿と舅の関係も同じなのですが、やはり時間を共有する機会が少ないからでしょう。あまり一般的な問題とは言えないようです。
 それに比べて嫁と姑は、時間を共有する機会が多いため、大脳辺縁系の記憶が、より刺激されやすいと考えられます。

 さらに、フロイトが最初に指摘した、エディプス関係というものも、影響しているかもしれません。
 ここで言うエディプス関係というのは、子供と異性の親の関係を指します。
 子供と異性の親は、子供と同性の親よりも深い愛情を持つ傾向がある、と理解しておけばいいと思います。

 つまり、嫁と姑というのは、嫁にとっては夫であって姑にとっては息子である一人の男性を奪い合う、ライバルのような関係にあるということです。
 こうしたさまざまな要因が絡み合って、最初からお互いに苦手意識を持ちやすい関係なのが、嫁と姑というわけです。

 嫁側が、実母に関する大量の大脳辺縁系の記憶を持っているとしたら、すぐに姑に対して苦手意識を持つでしょう。しかし前頭前野は、どうして苦手意識を持つのかわかりません。
 そのため、苦手意識を正当化しようと、姑のあら探しを始めるようになります。

 どんな人間でも、いくつも欠点はあるものです。あら探しをしようとすれば、すぐに見つけ出せます。
 そうして見つけ出した姑の欠点をあげつらい、嫁自身の苦手意識を正当化し続けるのです。

 姑側でも同じことです。子供に関する大脳辺縁系の記憶が大量にあれば、嫁に対してすぐに苦手意識を持ちます。
 そして、苦手意識を正当化するために、嫁のあら探しを始め、欠点をあげつらうようになります。

 嫁と姑のどちらか一方だけでも、このような態度をとってしまえば、もう片方も気分を害するでしょう。そうなれば、当然、いがみ合いに発展しやすくなります。

 姑の場合には、嫁の若さや美貌に対する嫉妬心もあるかもしれません。
 また、姑自身が嫁の立場だったとき、姑からひどい仕打ちを受けて危機的状況に陥った体験があるかもしれません。
 それが大脳辺縁系に記憶として残っていた場合には、同じようにひどい仕打ちをしてしまうでしょう。

 昔は、女性が弱い立場に置かれていました。特に嫁というのは、女性のなかでももっとも弱い立場だったのです。
 姑からひどい仕打ちを受けても、ほとんど反抗できませんでした。そのため、反感や嫌悪、憎しみといった強い情動を、意識化できずに抑圧し続けていた場合も多かったでしょう。

 そうした理由から、親から子への大脳辺縁系の記憶の伝染と同じようなことが、姑から嫁へも起こっていたと考えられるのです。

 現代では核家族化が進み、昔のを中心とした生活形態が崩れつつあります。そのおかげで、昔のようなどろどろした嫁と姑の関係は薄れつつありますが、完全に消えたわけではありません。

 特に年輩の女性のなかには、いまだにそうした影響から抜け出せない人もいるでしょう。そんな姑を持つ女性の場合には、昔の嫁のような扱いを受けるかもしれません。






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