Psystory

ball (第2節の続き) (記述の修正、抑圧された記憶の意識化と再編)



記述例A (修正1回目)
メモ




私の心の歴史

 その日は、朝からモヤモヤしていた。昨晩、A子と電話をしたときのA子の態度が気になっていたのだ。
 最近のA子は、ずいぶん冷たい。そんなA子の様子に不安といらだちを感じることが多くなった。
 私はA子を愛している。どうにもならないくらいだ。できればA子とずっと一緒にいたい。そして、あの抜けるような素晴らしい笑顔を、もう一度見たい。

 最近忙しくてあまり会えなかった。だが、仕方がないことだろう。こんな不況の時代に、会社の命令に逆らうことなどできるわけがない。A子もわかっているはずだ。どんなに忙しくても、電話だけは頻繁にかけている。
 この日ばかりは、上司の冷たい視線を無視して、仕事を早く切り上げた。そうして、いつもの喫茶店に着くと、適当な場所に席を見つけた。

 なかなかA子は現れなかった。今日ぐらいA子の言いなりになろうと考えていたのに、長く待たされていると、どうしても腹が立ってくる。せっかく会えるというのに、今日も遅れるつもりらしい。この前もずいぶん待たされた。
 いったいどういうつもりなのだろうか。本当にひどい話だ。私がこんなにも好きだというのに、どうしてわかってくれないのか。

 いい加減待ちくたびれて、イライラが疲れに変わった頃、A子はやっと姿を現した。私は心のなかで、〈ふざけるな!〉と叫んでいた。
 そのあとのA子の態度は、さらに私の怒りに油を注いだ。さんざん待たせておいて、謝ろうともしないのだ。私は怒りを抑えるのに必死で、なにもしゃべれるような状態ではなかった。
 A子も機嫌が悪そうだ。なにもしゃべろうとはしない。いったいどういうことなのだろうか。私を40分以上待たせたくせに、その理由さえ言おうともしない。本当に頭にくる。
 そうしてしばらくのあいだ、にらみ合うような状態が続いた。

 突然A子は、決心したように口を開いた。
「もう私たち、終わりにしましょう」
 A子のその言葉を聞いても、最初なにを言っているのか、全然意味がわからなかった。だが、その意味が理解できたとたん、頭に血が上って、もう少しで怒鳴りつけそうになった。
 なんて女なんだ。こんなにひどい話があるものか。今日だって必死の思いで時間を作ったんだ。それなのに、さんざん待たせたあげくに、いきなり別れるとは何事だ。私のことをなんだと思っているんだ。今まで私がどれだけ彼女に尽くしたか、忘れたとでもいうのか。

 だが、店内には私たち以外にも客がいる。大声で怒鳴るわけにもいかない。私は、必死になって怒りをかみ殺した。そうして、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「勝手すぎやしないか。さんざん待たせておいて、やっと来たと思ったら、いきなり別れようなんて」
 しかしA子は、私の言葉を聞くと、さらに機嫌が悪くなった。それまで以上に、きつい視線を浴びせ、冷たく言い放ったのだ。
「もう、あなたとつき合うのは、うんざりなのよ」
 この言葉は、私を凍りつかせた。私の心のなかで燃えていた怒りの赤い炎が消え、代わりに真っ黒な絶望が支配していった。私は、A子に嫌われたのだ。だが、私にはA子が必要だ。どうしても必要だ。どうしたらいい。なんとかならないのか。

 私は混乱した。なんとかしなくてはならない。でもどうしたらいいのか。どうしたら、A子との関係を元に戻せるのか。言いようのない焦燥が、波状攻撃をしかけてくる。なにかを話さなければいけない。だが、言葉がうまく出てこない。

 そんな私を見下すような視線を浴びせながら、A子は席を立った。そうして、断固とした口調で、私に最後の言葉を浴びせかけた。
「さようなら。もう二度と電話しないでね!」
 A子は去っていった。その後ろ姿を目で追いながら、全身から力が抜けていくのを感じていた。もう腕を動かすことさえ難しかった。ぐったりと背もたれに全身を預け、気が遠くなっていくような感覚に襲われていた。

 どれだけそうしていたのだろうか。気がつくと、さっきまでA子の座っていたイスを、呆けたように見つめ続けていた。
 私の恋は終わったのだ。私はA子に完全に嫌われてしまった。もう電話しても、どうにもならないだろう。もうあきらめるしかないのだ。
 修正によって、それまで抑圧されていた内容が、かなり表れてきています。
 たとえば、最初の記述では完全に抑圧されていたA子の言葉が、二つも増えています。
 きっとこの二つの言葉が、よほどつらかったのでしょう。そのため、どうしても受け入れられず、抑圧してしまったのです。

 もし、このまま抑圧を続けていたとすると、「うんざりだ」とか、「電話しないで」といった言葉を聞くと、情動発生処理が起きてしまうかもしれません。その分、心が不自由になっているわけです。

 修正したことで、今度はかなり細かく感情が記述されています。きっと、修正作業のあいだには、何度も情動発生処理が起きたことでしょう。

 こうした作業こそ、今まで何度もお話ししてきた、大脳辺縁系の記憶を大脳新皮質の記憶として再編するということなのです。

 この修正後の文章なら、抑圧されていた内容は、かなりの部分意識化できたと言ってもいいでしょう。心も、かなり軽くなったはずです。
 もうこの出来事が、今後の人生に悪影響を及ぼすことも、ほぼなくなったと見てもいいでしょう。

 しかし、修正後の文章であっても、最低でも2、3回は読み直す必要があります。そうして、もう修正する必要がないとハッキリ実感できるまでは、ほかの記述に移りません。

 この記述例で言えば、最初と最後に、まだ記述しきっていない部分があるようです。
 その部分の記述も含めて、もう一度修正してみましょう。

記述例A (修正2回目)
メモ

・B美との失恋
・C子との失恋



私の心の歴史

 やっと仕事も一段落つき、久しぶりに早く帰ることができた。私は早速、恋人のA子に電話をかけることにした。もう、かれこれ1週間以上会っていない。電話だけは頻繁にかけているが、最近A子が留守がちなので、なかなか話しもできない。携帯も、つながらないことが多い。
 もしかしたら、私を避けているのかもしれない。この前会ったときも、あまり楽しそうではなかった。電話でも携帯でも同じことだ。A子に嫌われているのではないか、そんな不安が頭をもたげてくる。
 必死になって、その不安を振り払った。きっと彼女なら許してくれる、そう自分に言い聞かせることにした。

 その日は早く帰っていたらしい。運良く電話がつながった。しかし、電話口に出たA子は、私だとわかると、急に声の調子を落とした。やはり機嫌が悪そうだ。私は、すぐに強い不安に襲われた。だが、不安などに構っている場合ではない。なんとか彼女の機嫌を取り戻さなければならない。
 少し考えてから、しばらく会えなかったことを素直に謝ることにした。
「放っておいて、本当に悪かった。でも、わかって欲しい。仕事がどうしようもないくらい忙しかったんだ」
「……」
 だが、私がいくら謝っても、A子は黙り続けている。どうしたらいいのだろうか。そうだ、ともかく時間を作って、明日A子と会おう。そうしないと、私たちの関係が終わってしまうかもしれない。それだけは避けなくてはならない。
「明日、会わないか。会社帰りに食事でもしよう」
 A子は黙ったままだ。なにも答えようとはしない。このままではまずい。こうなれば仕方がない。強攻策に出よう。
「どうしても明日会いたいんだ。夕方6時に。いつもの喫茶店で待っている」
「……そうね、ちょうどいいわ。私も話があるから」
 しばらく間があって、やっとA子が答えてくれた。その口調には、優しさのかけらもなかったが、とにかくOKが出た。私は、胸をなで下ろした。
 それでも、鈍くうずく不安感は相変わらず私を苦しめ続けた。だが、そんな不安を振り切るように、〈明日は、A子の言うことはなんでも聞いてあげよう〉と、何度も自分自身に言い聞かせた。

 その日は、朝からモヤモヤした気分が抜けなかった。昨晩、A子と電話で話したときのA子の態度が気になっていたからだ。
 最近のA子は、私と一緒にいても、全然楽しそうに見えない。そんなA子を見ていると、強い不安を感じた。
 私はA子を愛している。どうにもならないくらいだ。できればA子とずっと一緒にいたい。だが、A子は私のことをそんなに真剣には考えていないのかもしれない。それでもいい。少なくとも、A子は私の誘いに乗ってくれるのだ。今日だって、会ってくれるのには違いない。

 ただ、つきあい始めた頃のA子の抜けるような笑顔を最近見られないのが残念でならない。どうしてだろう。まさか、ほかに好きな男ができたのだろうか。
 いや、A子に限ってそんなことはないだろう。そういうところは、きちっとした女性だ。そうでなければ、私が好きになるはずがない。そうだ、きっと私の仕事が忙しすぎたせいで、あまり会ってあげられなかったからだろう。それで少しふくれているんだ。
 今日1日は、A子の言うことをなんでも聞いてあげよう。そうすれば、また、A子の笑顔が見られるようになる。きっとそうだ。

 この日ばかりは、上司の冷たい視線を無視して、仕事を早く切り上げた。そうしていつもの喫茶店に着くと、お気に入りの窓際の席を確保した。
 待ち合わせ時間までは、まだ少し余裕がある。私は、ぼんやりと外を眺めた。
 すぐ近くの道を、大学生らしいカップルが、仲良く手をつなぎながら通り過ぎていく。二人とも楽しそうだ。私とA子も、つきあい始めてからしばらくは、あんな風だった。その頃は、A子の抜けるような笑顔は、いつも私の手のなかにあった。

 ぼんやりしているうちに、注文したコーヒーを持ってウェイトレスがやってきた。コーヒーを一口すすって店内の時計を見ると、約束の時間を少し過ぎていることに気づいた。
 A子は、今日も待ち合わせ時間に遅れるらしい。つきあい始めた頃は、時間に遅れることなどなかったのだ。A子のそういうところを、私は大好きだった。
 しかし、最近は、平然と遅れてくる。この前は、30分以上も待たされた。それなのに謝ることもなく、理由も言わなかった。
 そんなことを考えていると、無性に不安がこみ上げてくる。いったいA子はどうしたんだろう。私のことを嫌っているのだろうか。いや、そんなことはない。長くつき合っているうちに、少し時間にルーズになっただけだ。

 気のせいか、時計ばかり見ている。もう20分も過ぎた。いったいなにをしているんだろう。もしかしたら、事故にでも巻き込まれたのだろうか。言いようのない焦燥が、ジワジワと全身に広がってくる。
 同時に腹も立ってきた。いったいどういうつもりなんだ。せっかく会えるというのに、こんなに待たせるなんて、非常識すぎる。今日は絶対にA子の言いなりになるんだと強く決心していたが、我慢も限界を越えた。A子が来たら、ハッキリと文句を言ってやろう。
 40分を過ぎた頃、やっとA子が姿を現した。安心したと同時に、強い怒りが私の心を支配した。私は心のなかで、〈ふざけるな!〉と叫んでいた。

 そのあとのA子の態度は、さらに私の怒りに油を注いだ。さんざん待たせておいて、謝ろうともしないのだ。私は怒りを抑えるのに必死で、なにもしゃべれるような状態ではなかった。
 A子も機嫌が悪そうだ。なにもしゃべろうともしない。いったいどういうことなのだろうか。私を40分以上待たせたくせに、その理由さえ言おうともしない。本当に頭にくる。
 そうしてしばらくのあいだ、にらみ合うような状態が続いた。

 すると、突然A子は、決心したように口を開いた。
「もう私たち、終わりにしましょう」
 A子のその言葉を聞いても、最初なにを言っているのか、全然意味がわからなかった。だが、その意味が理解できたとたん、頭に血が上って、もう少しで怒鳴りつけそうになった。
 なんて女なんだ。こんなにひどい話があるものか。今日だって必死の思いで時間を作ったんだ。それなのに、さんざん待たせたあげくに、いきなり別れるとは何事だ。私のことをなんだと思っているんだ。今まで私がどれだけ尽くしたか、忘れたとでもいうのか。

 だが、店内には私たち以外にも客がいる。大声で怒鳴るわけにもいかない。私は、必死になって怒りをかみ殺した。そうして、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「勝手すぎやしないか。さんざん待たせておいて、やっと来たと思ったら、いきなり別れようなんて」
 しかしA子は、私の言葉を聞くと、さらに機嫌が悪くなった。それまで以上に、きつい視線を浴びせ、冷たく言い放ったのだ。
「もう、あなたとつき合うのは、うんざりなのよ」
 この言葉は、私を凍りつかせた。私の心のなかで燃えていた怒りの赤い炎が消え、代わりに真っ黒な絶望が支配していった。私は、A子に嫌われたのだ。だが、私にはA子が必要だ。どうしても必要だ。どうしたらいい。なんとかならないのか。

 私は混乱した。なんとかしなくてはならない。でもどうしたらいいのか。どうしたら、A子との関係を元に戻せるのか。言いようのない焦燥が、波状攻撃をしかけてくる。なにかを話さなければいけない。だが、言葉がうまく出てこない。
 そんな私を見下すような視線を浴びせながら、A子は席を立った。そうして、断固とした口調で、最後の言葉を浴びせかけた。
「さようなら。もう二度と電話しないでね!」
 A子は去っていった。その後ろ姿を目で追いながら、全身から、力が抜けていくのを感じていた。もう腕を動かすことさえ難しかった。ぐったりと背もたれに全身を預け、気が遠くなっていくような感覚に襲われていた。

 私の心には、さまざまな情景が浮かんでは消えていった。A子とつきあい始めてからの1年間、本当に楽しいことばかりだった。今となってはもう、ただの想い出にすぎない。私は、本気でA子を愛していたのだ。
 しかし、心のどこかでは、こうなることがわかっていたような気もする。A子の態度は、ここ2ヶ月あまり、ハッキリとわかるくらい冷たいものに変わっていた。私は、それを見ようとしなかっただけなのだ。
 なんとなく原因もわかっている。きっと私自身がいけないのだ。私は、自分でもあきれかえってしまうくらい、嫉妬深い。

 なぜだかわからないが、恋人が私以外の男性と話しているだけで、強烈な不安と怒りに襲われてしまう。そうして気がつくと、恋人を怒鳴りつけてしまっているのだ。
 A子が、浮気などしない女性だということはよくわかっている。だが、私以外の男性と一緒にいるのを見ただけで、どうしようもなくなってしまうのだ。A子も、そんな私に嫌気が差したのだろう。
 考えて見れば、A子の前につき合っていた、B美やC子のときも同じだった。いつでも私自身の嫉妬深さが原因で、失恋となってしまったのだ。
 これだけの内容が意識化できたのであれば、A子との失恋に関する記述は、もう終わりにしてもいいでしょう。

 修正1回目の記述と比べると、A子との関係がすでに破綻していたことが、かなり明確になっています。初めの方の電話に関する記述の段階でそのことが現れていますし、終わりの方になると、実際にハッキリと意識化されています。

 さらに、A子以前のB美やC子との失恋についても、そのときの記憶が意識化されてきており、次の記述への準備までできています。

 このように、記述したい項目が思い出されてきたら、メモエリアに箇条書きにしておきます。
 この修正2回目の記述の例でも、ちゃんとメモ・エリアに、B美との失恋とC子との失恋がメモされています。

 さて、ここまで来れば、もう気づかれた方も多いでしょう。
 これは、第1章第4節でお話しした、親戚の女子高生に恋をした青年がサイストリー記述を実践した場合、どのような記述になるか、それを想定したものです。

 この青年は、この後、B美やC子との失恋の記述を続けることでしょう。
 そうして、いつかは、青年自身の心の問題の核心である、親戚の女子高生との悲しい初恋に行き着くことになります。

 その記述が完成したとき、この青年は大きな心の自由を手にすることができるのです。
 サイストリー記述は、すべてこのような方法で進められていきます。

 もちろん、記述の内容は、失恋だけではありません。しかし、失恋というのは、その後の人生に及ぼす影響が大きいため、サイストリー記述では、重要な記述項目の一つになります。

 この節では、実際のサイストリー記述について、失恋の記述例を中心に、詳しくお話ししてきました。
 いかがでしょうか。実際のサイストリー記述がどのように行われていくか、そのイメージをご理解いただけたでしょうか。

 次にお話しするのは、現在苦しんでいるストレスを発散しながら、サイストリー記述を進めていく方法です。






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