Psystory

ball 第3節 ストレスからのサイストリー記述 (ストレス・マネジメント、感情の言語化と発散)



ストレス・マネジメントとしてのサイストリー記述
 現在、なんらかのストレスにさらされているという方は、かなり多いのではないでしょうか。

 ストレスをうまく解消して心身の病気を防ぐことを、最近ではストレス・マネジメントなどと呼びますが、サイストリー記述は、とても優れた方法にもなります。

 もちろん、サイストリー記述を行えば、ストレス・マネジメントだけでなく、自由な心の獲得までも可能になります。

 方法は、いたって簡単です。現在のストレスについて、今までお話しした方法で記述していくだけです。
 そうしているうちには、ストレスを自然に解消し、自由な心を獲得していけるのです。

 実際、苦しんでいるストレスについてサイストリー記述を実践すると、さまざまなことに気づくようになります。
 そうして、ストレスの原因を突きつめてみると、意外と簡単に解決できるものだった、ということになるわけです。

 このことは、第1章第2節でお話しした内容とつながってきます。
 たとえば海で溺れてしまった場合、海水に浸かっている全身の感触、塩辛い海水の味、ぎらぎらした太陽の光、潮の香り、顔に当たる海風の感触、波の音、船の汽笛などの細かな情報の一つ一つが、強い情動と結びついて大脳辺縁系に記憶されています。

 そのため、それらの情報と似たような情報が五感を通して入ってくると、危機的状況としての情動発生処理が起きてしまいます。

 しかし、ひとたび前頭前野が言語化して、首尾一貫したまとまった記憶として再編すると、大脳辺縁系の情報の大部分が情動と切り離されます。
 そして、本当に危険と結びついた記憶だけが、情動発生処理をするようになります。

 それと同じで、あるストレスについてサイストリー記述を行っていくと、直接関係ない問題点までが、すべて一つのストレスとして感じ取られていたことがハッキリしてきます。
 そうして、ストレスの本当の原因を特定していくと、意外と簡単に解決できるものだった、ということになるわけです。

 たとえば、自分の能力を超えるような難しい仕事を任されてしまった場合、それだけで強いストレスを感じるはずです。
 最初は頑張ってその仕事をこなしていたとしても、そのうちには、無理がたたって、トラブルが続出するかもしれません。

 もし、そんなことが続けば、どんどんストレスが蓄積され、いずれは押しつぶされてしまうでしょう。
 しかし、押しつぶされる前にサイストリー記述をしておくと、そうした悲劇から逃れることが可能になります。

 その方法を、実際にお見せしましょう。

記述例B (最初の記述)
メモ




私の心の歴史



 今の仕事は、私には荷が重すぎる。過去に一度も経験のない仕事なのだ。しかし、このプロジェクトには、会社の将来がかかっている。私の将来も同じだ。なんとか頑張らなくてはならない。
 それにしても疲れる。毎日残業ばかりで全然休むひまがない。どうしてこんなことになってしまったのか。

 だいたいが、私一人で原料の発注から各業者の作業進捗管理、顧客への定期的なフォローまでしているのだから、時間がなくなって当然だ。
 私に部下として与えられているのは、女子事務員一人だけだ。これでは、どうにもならない。しかも、今度の顧客は、うるさい注文ばかりつけてくる。

 私にこの仕事を命じたB課長は、涼しい顔をして毎日定時退社している。こんな馬鹿げたことがあってたまるものか。いったいどういうことなんだ。私はなんで、こんな仕事を引き受けてしまったのか。
 確かにB課長には、入社以来ずいぶん目をかけてもらった。この仕事を命じられるときにも、「君しか、この仕事を任せられる人はいない」と、いかにも私を信頼しているような口振りだった。私は、それがうれしくて、引き受けてしまったのだ。

 しかし、実際プロジェクトに入ってみると、ずいぶんおかしなことばかりだ。
 頼みのB課長は、私が悪戦苦闘しているのを知っていながら、見て見ぬ振りを決め込んでいる。必要最低限の人員も割いてくれない。これはいったいどういうことなのだ。まるで私が潰れるのを、心待ちにしているようではないか。
 同期入社の仲間たちは、楽な仕事ばかり任されている。それなのに、私の方が査定が上だということもない。

 実際に、私よりも早く昇格した仲間は大勢いるし、私より遅いのは、同期のうちの1割にも満たないだろう。これでは、いくらなんでも不公平すぎる。
 よく考えて見れば、B課長に目をかけられているというのは、私の錯覚だったのかもしれない。しかし、どうして私はB課長に逆らうことができないのか。どうしてこんな割に合わない仕事を押しつけられても、簡単に引き受けてしまうのか。
 このように、ストレスについて記述していくときの一番の留意点は、そのときの不平不満や怒り、悲しみなどの感情をしっかりと言語化することです。

 ストレスというのは、第1章で何度もお話ししたように、大脳辺縁系が危機的状況だと判断することから発生します。そのせいで、前頭前野の活性が落とされ、正常な思考ができなくなってしまうのです。

 したがって、まず最初に、ストレスを発散しなくてはいけません。
 サイストリー記述は守られた安全な空間で行うのですから、思ったこと、感じたことを、そのまま記述していってください。

 ときには、誰か特定の人に対する中傷や非難、侮蔑、あざけりなどを記述する場合もあるでしょう。それでいいのです。
 どんなにひどい内容を記述しても、自分以外には読む人もいませんし、誰からも非難される心配もありません。

 とにかく、思ったこと、感じたことをすべて記述していきます。そうしていくうちには、大脳辺縁系で発生した情動が収まってきます。
 つまり、ストレスが言語化によって発散され、正常な思考ができるようになるわけです。

 そうなった段階で、できあがった記述を改めて読み返して見ると、それまで気づかなかった問題点がハッキリと浮かび上がってきます。

 それでは次に、そうした点を踏まえた修正後の記述を見てみましょう。

記述例B (修正後の記述)
メモ

・B課長と初めて会ったときの印象について



私の心の歴史



 今の仕事は、私には荷が重すぎる。過去に一度も経験のない仕事なのだ。しかし、このプロジェクトには会社の将来がかかっている、とB課長に言われた。私の将来も同じらしい。
 それにしても疲れる。毎日残業ばかりで全然休むひまがない。どうしてこんなことになってしまったのか。

 だいたいが、私一人で原材料の発注から各業者の作業進捗管理、顧客への定期的なフォローまでしているのだから、時間がなくなって当然だ。
 私に部下として与えられているのは、女子事務員一人だけだ。これでは、どうにもならない。しかも、今度の顧客は、うるさい注文ばかりつけてくる。

 このままでは、いつかはミスが出て、トラブルが発生してしまうだろう。そうなってしまった場合、多くの人に迷惑がかかってしまう。私自身も、クビを覚悟しなくてはならない。

 私にこの仕事を命じたB課長は、涼しい顔をして毎日定時退社している。どうして私だけ、こんなに苦労しなくてはならないのか。
 確かにB課長には、ずいぶん目をかけてもらった。この仕事を命じられるときにも、「君しか、この仕事を任せられる人はいない」と、いかにも私を信頼しているような口振りだった。私は、それがうれしくて、引き受けてしまったのだ。

 しかし、実際プロジェクトに入ってみると、頼みのB課長は、私が悪戦苦闘しているのを知っていながら、見て見ぬ振りを決め込んでいる。必要最低限の人員も割いてくれない。まるで私が潰れるのを、心待ちにしているようだ。
 このままでは、プロジェクト進行の責任が果たせない。B課長には、私にこのプロジェクトを命じた責任があるはずだ。目をかけてもらった恩義はあるにしても、私の悪戦苦闘ぶりを見て見ぬ振りとは、いくらなんでもひどすぎる。

 ここは一つ、B課長にも一肌脱いでもらわなければならない。
 今回のプロジェクトをうまく推進するためには、私以外にも、もう一人担当者が必要だ。その担当者と、うまく仕事を分担していければ、すべては解決する。
 そのもう一人の人員を確保してもらおう。
 それにしても、同期入社の仲間たちは、楽な仕事ばかり任されている。それなのに、私の方が査定が上だということもない。

 実際に、私よりも早く昇格した仲間は大勢いるし、私より遅いのは、同期のうちでもホンのわずかだ。これでは、いくらなんでも不公平すぎる。
 よく考えて見れば、B課長に目をかけられているというのは、私の錯覚だったのかもしれない。しかし、どうして私は、B課長に逆らうことができないのか。どうしてこんな割に合わない仕事を押しつけられても、簡単に引き受けてしまうのか。

 もしかしたら、私がB課長に目をかけられていると感じた一番の理由は、第一印象にあったのかもしれない。私はB課長を初めて見たときから、いい人だと感じていた。さらに、この人の下で働けて幸せだと感じていた。
 そういえば、B課長が私に命じる仕事は、いつも同僚たちが嫌がるような、難しい仕事ばかりだった。しかも、苦労に苦労を重ねても、結局は大した業績にならない、割に合わない仕事ばかりだったのだ。
 私は、B課長に全幅の信頼をおいていた。そのため、B課長が命じる仕事は、すべて二つ返事で引き受けてきた。どうやらそれが、一番の問題だったのだろう。
 私はB課長に、うまく利用されていたらしい。
 この修正後の記述で、現在のストレスの問題点が、人員不足であったことがハッキリしました。
 そして、その解決策は、担当者を一人増やしてもらうことだったのです。

 絶えず仕事に追われてストレスが蓄積してくると、前頭前野の活性が落とされたままになり、ストレスの原因について考えられなくなってしまいます。
 そんな状態が続けば、いずれは心身を病んでしまうでしょう。

 しかし、この例のように、気力を振り絞って、きちんとサイストリー記述を行っておけば、それを防ぐことが可能なのです。

 まず最初に不平不満や怒り、悲しみなどをしっかりと言語化することで、それまでの蓄積されたストレスを発散することができます。
 そうして前頭前野の活性を高め、ストレスの本当の原因を明確化することによって、その解決策までが浮かび上がってくるというわけです。

 それだけではありません。修正後の記述では、B課長に対する異常なまでの思い込みを意識化することもできました。それは、次の記述項目として、メモ・エリアに記述されています。

 B課長に対する異常なまでの思い込みというのは、記述のなかにも表れていますが、第一印象に原因があると考えられます。
 そして、第一印象であまりにも良い印象を持つというのは、前章第4節でお話しした助けてくれた人たちの記憶が関与していると考えられます。

 この後に、メモ・エリアに記述してある「B課長に初めて会ったときの第一印象」について記述していけば、助けてくれた人たちの記憶を意識化するためのヒントが得られるかもしれません。

 このように、現在のストレスを記述することによって、自分自身の心の問題の核心に迫るヒントまで、得ることもできるのです。

 もし、サイストリー記述を行わなければ、蓄積された疲労、B課長に対する不平不満、昇格に関する不満、仕事の分担に関する不公平感などが未分化のまま、一つのストレスとして襲いかかってきたことでしょう。

 結局は、前頭前野の活性が落ちたままで、有効な解決策を見つけ出せず、ストレスに押し潰されていたかもしれません。
 原因とその解決策さえハッキリすれば、たとえB課長が人員確保を渋ったとしても、いくらでも手は打てます。

 たとえば、自分一人でできる範囲を明確化し、それ以上の業務は簡略化、もしくは省略していくという手が考えられます。

 具体的に言えば、原材料の発注や作業進捗管理を簡略化し、女子事務員にも任せられるようにしたり、顧客への定期的なフォローの回数を半分に減らしたりすることです。
 さらに、業務をそのように変更していくことをB課長に認めさせれば、完璧でしょう。

 一人でできることには、おのずと限界があります。
 もし、その限界を超えた業務を強制されるのであれば、ハッキリと上司に訴えるべきです。

 それを上司が受け入れないのであれば、失敗したとしても、すべての責任は上司にあります。
 そこで遠慮をしていると、過剰なストレスに潰されてしまったり、致命的な大失敗につながってしまうのです。

 ここまでは、仕事のストレスを例にとって、ストレスが一つにまとまって感じられるものに対するサイストリー記述の方法をお話ししてきました。

 今度は、最初から複数のストレスにさらされていると感じている場合について、お話しすることにしましょう。






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