How to overcome depression
ball 悪性リンパ腫?サルコイドーシス?(発症4週目)ball



ball 発症22日目
 この日の夜、父から電話がありました。
 明日検査結果について重大な報告がある、とナース・ステーションで言われたので、一緒に聞いて欲しいとのことでした。
 時間も、私が行きやすいように、午後6時に設定してもらったそうです。

 嫌な予感がしました。重大な報告とは、いったいなんでしょう。
 しかし、とにかく聞いてみるしかありません。私は父に、絶対行くからと返事をして、
電話を切りました。

ball 発症23日目
 仕事を早く切り上げ、約束の午後6時、精神科病棟に到着しました。
 いつもの面接室には、父が待っていました。母の様子を聞くと、あまりよくないみたいだ、とだけ教えてくれました。
 しばらく待つと、若い医師がひとりやってきました。そして、見てほしいレントゲン写真等があるので、内科病棟へ一緒に来てほしいということでした。

 その医師に連れられて、内科病棟に行くと、カンファレンス・ルーム(会議室)へ通されました。そこにはもうひとり年輩の医師が待っていて、患者名(母の名前)の確認と、私と父の続柄の確認が行われました。

 まずは、レントゲン写真の説明から始まりました。
 母の肺の下部には、ハッキリとわかるちょっと大きめの「陰影」が写っていました。医師は、「肺門リンパ節」の位置だと説明してくれました。
 さらに、超音波検査や血液検査などの結果について、どこが異常であるとか、どの値が通常値と異なっているとか、一通り説明してくれました。

 そして医師は、一呼吸おいて、私と父の顔をじっと見つめ、ゆっくりと諭すように話し始めました。
「肺のリンパ節の腫脹、発熱、血液検査や尿検査などの特徴的所見から判断して、悪性リンパ腫の可能性が極めて高いと言わざるを得ません。サルコイドーシスの可能性も、若干ですがあります」

 簡単に、病名について説明しておきましょう。
 「悪性リンパ腫」というのは、リンパ型白血病と同じように、リンパ球がガン化する病気です。
 白血病と比べると、比較的骨髄などの造血組織が侵されにくい、という特徴があります。主な症状は、発熱、倦怠感、体じゅうのいろいろな部位のリンパ節の腫瘤などで、ほかの臓器へガン化したリンパ球が浸潤すると、その臓器のガンとしての症状が発生します。
 また、造血組織が侵された場合には、白血病と同等(「白血化」と言います)になります。

 「サルコイドーシス」というのは、原因不明の肉芽腫病変がいろいろな臓器で発生する病気です。
 おもに目や肺門リンパ節で発見される場合が多く、それぞれの臓器に障害をもたらします。しかし、死亡例は少なく、70〜80パーセントは自然治癒します。
 「悪性リンパ腫」と比べると、かなり軽い病気だと言えます。

 私は医師の告知を聞いた瞬間、混乱してしまいました。
 なにがどうなって、「悪性リンパ腫」などという恐ろしい病名が、この場で出てこなくてはならないのでしょう。
 母は、うつ病で精神科病棟に入院したはずです。それなのに、全然予想もしなかった、とんでもない病名が告げられるというのは、いったいどうしたことでしょう。

 しばらく言葉が出ませんでした。2人の医師も、告知した病名からして、家族がどんな状態になるのかは、予想がついていたのでしょう。
 じっと私と父からの反応を待っているようでした。

 私はそこで、恐ろしいながらも、聞いておかなくてはならないことを、思いつきました。
「悪性リンパ腫だとして、いったいどの程度の病期なのでしょう。末期に近いのでしょうか。それとも、初期のものなのでしょうか」
 医師は、ゆっくりと答えてくれました。
「まだ、悪性リンパ腫だと確定診断されたわけではありません。病期についても、もう一度全身の検査をしないとハッキリとは言えません。でも、今までの検査結果から推定する限り、ごく初期のものだと思われます」

 この医師の言葉には救われました。もし「悪性リンパ腫」だとしても、初期のものであれば、完治する可能性が高いからです。
 しかし、その治療は、「放射線照射」「化学療法」(抗ガン剤)が主となります。
 母のような重いうつ病患者が、放射線治療や化学療法に耐えられるのでしょうか。

 最後に医師は、早急に「病理組織検査」(実際の病変の一部を簡単な手術で採取して、顕微鏡などで病理学的に診断することです。「生検」と同義です)を行う必要がある、準備が出来次第すぐに取りかかるつもりだ、と話し、すべての説明が終わりました。

 何とも重苦しい気持ちのまま、カンファレンス・ルームを後にしました。
 精神科病棟に戻り、看護婦に許可をもらって、母の病室に寄ることにしました。
 母は、度重なる検査のせいか、かなり疲れているようでした。しかし、すぐにまた「病理組織検査」が待っています。
 うつ病だけでも強烈な苦痛を味わっているのに、強い痛みの伴う検査まで受けなければならないとは・・・
 それに、もし「悪性リンパ腫」だったとしたら・・・

 私はその日、実家に泊まることにしました。
 兄弟にも報告しなければなりませんし、父とも相談しなければならないと感じたからです。

ball 発症24〜25日目
 母の発熱は、やはり続いていました。抗生剤も何種類か試しているのですが、効果が上がらないと言うことでした。
 やはり、「悪性リンパ腫」なのかもしれません。

 このころ父は、私と会ったり、電話で話すたびに、母がどんどん悪くなっているみたいだ、と訴えかけるようになりました。入院させない方がよかった、などと言うこともありました。
 私は父に、検査のせいで疲れているんだよ、と何度も慰めなければなりませんでした。

 しかし、私自身も、母のうつ状態がひどくなっていることは感じていました。
 症状が悪化しているせいでしょう。病室も、7人部屋から2人部屋へ変わりました。

ball 発症26日目
 この日、「病理組織検査」として、「穿刺吸引細胞診」が行われました。
 腹部から肺の下の方にある肺門リンパ節まで太めの長い注射針を刺して、リンパ節内の細胞を採取する方法です。食事も摂れず、痛みも強いため、健常者であっても、かなりつらい検査です。

 うつ病の母にとっては、やはり相当に激しい苦痛だったようでした。検査後、動けなくなってしまい、車椅子で病室まで戻って来るといったありさまでした。
 母の表情は、さらに苦痛に満ちたものとなっていました。父も、そんな母の様子を見ていて、かなりつらそうでした。
 私自身、なんでここまで母が苦しまなければならないのか、どうにも理解できないくらいでした。

ball 発症27〜28日目
 入院前からずっと続いていた母の発熱が、検査直後から下がり始めました。
 そして、何とも皮肉な感じですが、この2日間、ずっと平熱の状態が続いています。やっと、今の母の体に合った抗生剤が見つかったということなのでしょうか。

 発熱から解放されたせいでしょう。母の様子も、少し楽になったようにも見えました。
 もしかしたら「悪性リンパ腫」ではないかもしれない、そんな希望さえわいてくるようでした。
 ずっと心配し続けてきた父も、少しホッとしたようでした。

 しかしこのときには、次の週、とんでもないことが起こるなどとは、想像もしていませんでした。






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