How to overcome depression
ball 13.久しぶりのわが家「外泊許可」(発症3ヶ月目)ball



ball 発症9週目
 母は、気分変動は相変わらずでしたが、落ち込みの度合いがかなり軽くなってきたようです。落ち込んでいるときの表情も、苦痛に満ちたもの、というよりは「仮面様相貌」または難しい考え事をしている、といった雰囲気に変わってきました。
 うつろな目つきになってしまうことも、ほとんどなくなったようです。いつでも、きちんとした意志が感じられるのは、とてもいい傾向でしょう。
 父も、いつでもちゃんとした会話ができることに、とても満足な様子でした。

 担当医も、母の様子を見て、そろそろ症状が安定してきていると感じたのでしょうか。退院の準備としての外泊について、話してくれました。
 入院してから、もう少しで2ヶ月になろうとしています。そろそろ、いい時期なのかもしれません。

 その後、担当医と父との話し合いのなかで、来週になって一度、外泊することが決まりました。母が久しぶりに、家に帰ってくるのです。
 父はうれしそうな反面、とても心配そうでした。今はかなり回復しているとはいえ、あのような激しい症状を目の当たりにしてきたのですから、当然でしょう。

 うつ病患者の場合、注意しなければならないことがあります。
 外泊できるまでに回復したとは言っても、ふつうの病気とは違った配慮が必要なのです。

 まずは、久しぶりに家にいるからと言って、家族以外の人と会わせてはいけません
 友人や知人・親戚のなかには、病棟での面会ができなかったこともあって、会えるのなら会いたいと感じている人も多いでしょう。このような人たちに外泊のことを伝えてしまうと、いきなり押しかけてくるという危険があります。
 もし、そのような人が患者を激励したり、「もう大丈夫」などと声をかけたりすると、また病気が悪化してしまうかもしれません。

 うつ病患者の外泊は、医師が患者の退院の可能性について判断するための、重要な判断材料となります。
 発症前の患者の生活環境には、発症の一因となるなにかが含まれていると考えられます。そのような環境のなかに戻ってみて、患者がどのような精神状態になるのか、ハッキリと見定める必要があるわけです。

 患者の家族としては、つとめて平静さを失わないようにしなければなりません。さらには、患者が望まない限り、なにかの作業をさせる、家事をさせる、ということも避けるべきです。
 いつもと変わらない生活のなかで患者の様子を見る、という態度が大切になってくるわけです。

ball 発症10週目
 先週決まった母の外泊について、担当医から父に、いろいろな注意事項の説明がありました。内容としては、想像したとおりでした。
 患者を日常生活の場に戻すことで、その様子をしっかりと見て、退院が可能かどうか、判断することが目的だと告げられました。さらに、緊急時の連絡先、処方された薬の管理に対する説明などがありました。

 父は、その説明をうまく理解できなかったのでしょうか。不安が強すぎたのでしょう。私にしきりに説明を求めてきました。私は、薬の管理や母の様子の観察の仕方などについて、細かく説明しました。

 そうこうしているうちに、いよいよ外泊日がきました。
 父が自動車で迎えに行き、母は約2ヶ月ぶりのわが家へ帰ってきました。

 母の様子は、病院にいるときと変わりません。少し不安を感じている、と言ったような表情で、特に苦痛を感じているようではありません。
 父が布団を敷き、母はそこで休んでいました。それでも、しばらく休んだあと、母は、家のあちこちに行き、いろいろなものをひとつずつ、ゆっくりと確認しているようでした。
 そうしてしばらく経つとまたふとんに戻る、そんなことの繰り返しでした。
 父は、母がしばらく動き回ったあと、必ず「疲れるからふとんで休んでいなさい」と話しかけていました。

 母に対して話しかけると、ほぼ的確な答えが返ってきます。ただ、少し考え出すと、疲れを感じるような素振りを見せました。
 父は、かいがいしく、まるで子供に対するかのように、母の世話をしました。薬の管理は、とても神経を使っているようで、一回分の薬を取り分けて、ひとつずつ袋に入れ、きちんと飲ませていました。

 私は父の様子を見て、これなら退院しても、充分な看病をしてくれそうだ、そんなふうに感じました。

ball 発症11週目
 この週の母は、まだしばらく病院にいた方がいいのか、退院した方がいいのか、自分の気持ちを決めかねている、という様子でした。
 それでも、苦痛に満ちた表情は、もう見られません。その代わりに、いつもなにか考え事をしている、そんなふうに受け取れました。病院内での行動は、とてもスムーズで、特に問題がないようでした。

 まだ自発的になにかをしよう、という気力は感じられませんでしたが、ときどき見せる笑顔からぎこちなさが消えていく、そんなふうに感じました。

 担当医からは、まだ退院は考えなくていい、でも来週にはもう一度外泊をしてみよう、そんな提案がありました。
 外泊の話をすると、母の表情には、まだまだ不安があるのが感じられました。それでも、一度外泊できたことの事実が、最初のときよりも気楽さをもたらしている、という印象は受けました。

 父の方は、まだ未定とは言え、母の退院が着実に近づいている、と感じられることが、とても満足な様子です。一回目の外泊もうまくこなすことができたので、だいぶ自信がついたようでした。

ball 発症12週目
 いよいよ2度目の外泊が近づいてきました。
 担当医からまた一通りの注意事項の説明がありました。今度は父も、落ち着いて聞けたようでした。不安が全くない、というわけではありませんが、一度目と比べると、かなり安心できたようでした。
 しかも、今度の外泊でなにも問題がなければ、いよいよ退院への秒読み段階です。
 父の期待感が強く感じられる、そんな雰囲気でした。

 2度目の外泊は、すべて父に任せました。もうさすがに心配はない、と感じたからです。電話口で母の様子を聞くと、うれしそうに、なかなかいいみたいだ、と返事が返ってきました。食事や薬に関しても、ほとんど問題はないようです。
 もうそろそろ退院を考えてもいい時期にきた、そんな感じでした。

 母がうつ病を発症してから、大変なことが続きました。やっとの思いで入院してからも、「悪性リンパ腫」「うつ病性昏迷」と、やっかいなことが続きました。
 それでも、ここまで回復して、退院が考えられるところまできました。もう、母は大丈夫でしょう。

 母の2度目の外泊が無事終わったからでしょう。担当医からも、父に対して、そろそろ退院だね、との話がありました。まだまだ母は、発症前の状態に戻っているわけではありません。しかし、ほぼ危険な状態は終わったようです。
 母の入院している精神科病棟では、入院待ちの患者がたくさんいる、とのことでした。なかには、今の母よりも重い症状に苦しんでいる患者もいることでしょう。
 そろそろ母は、そうした人たちにベッドをゆずる時期が来たのかもしれません。






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