How to overcome depression
ball 15.ほとんど寝たきりの生活(発症5〜12ヶ月目)ball



ball 発症5〜6ヶ月目
 この期間の母は、病院での生活をそのまま継続している、という感じでした。ほとんどの時間を、寝たきりで過ごしていました。
 時たま家の中をゆっくりと歩き回ったり、心配事を話し出したり、ということはありましたが、特に気になるような症状は出ませんでした。ただただなにもしないでゆっくりと休んでいる、そんな状態でした。

 もちろん、うつ病患者にとっては、なにもしないでのんびりすることが、もっとも大切なことです。自宅療養として、とてもうまくいっている、そんな感じでした。
 毎週担当医のところへ父と一緒に通院していましたが、医師も、今はゆっくりと休むことがなによりも大切だ、と毎回両親に指示していました。

 父は、食事から洗濯、掃除、母の身の回りの世話と、まるで小さい子供に対するかのように、かいがいしく母の面倒を見ていました。

 食事については、ときどき食べたくない、と言うこともありましたが、父にたしなめられて、毎食少しずつでも食べていました。薬についても、父がしっかりと管理していて、母が忘れそうになると、きちんと飲ませていました。

 母の様子がとても安定しているので、父は、少しずつ、親戚や知人、友人たちに、母が退院したことを伝えはじめました。
 母へのお見舞いの来客も来るようになりましたが、父が徹底的に母を休ませることを優先してくれたので、来客のせいで母が疲れる、ということはありませんでした。来客の方も、父の態度を見て、遠慮するようになり、ひんぱんに訪れるようなことはありませんでした。

 本当にゆっくりと母は休んでいました。
 うつ病の治療としては、とても理想的な環境だと言えるでしょう。

ball 発症7〜8ヶ月目
 発症してから、半年が過ぎました。しかし、母の生活は、ほとんど変化がありませんでした。寝たきりのような状態が続いていました。
 自発的になにかをしたい、という気持ちはほとんど感じられません。それでも、以前から好きだったテレビ番組を最後まで見る、ということはできるようになりました。

 母の様子が安定しているからでしょう。担当医の診察も2週間に1回と変わりました。
 担当医の指示は、相変わらず、なにもしないで休んでいることが一番だ、とのことでした。でも、そろそろ、ちょっとした散歩程度なら、してみた方がいいかもしれない、と言ってくれました。ただし、本人が望んだ場合だけ、と言うことはしっかりと注意されました。

 うつ病患者の家族は、半年も経つと、患者に対して、そろそろ発症前と同じような生活をして欲しい、と考えることでしょう。
 しかし、うつ病の場合、あせりは禁物です。発症前に患者が好きだった場所に連れて行くとか、ちょっとした行楽をすればもっと元気になる、と考えてしまいがちなのですが、これは間違いです。

 うつ病患者は、健常者が想像もつかないほど、疲れやすいのです。
 発症前に患者が好きだった場所でも、無理に連れ出すようなことは、絶対に避けるべきです。温泉に行ってのんびりすればもっとよくなる、なんて言うのも間違いです。

 よくなったように見えても、患者本人が自分の意志で外出したい、とハッキリと言い出すまでは、無理な外出は避けなくてはなりません。患者本人のためだと思ったとしても、無理な外出などを強制すると、とたんに急性期の症状が現れたりします。
 こうなると、かえって病期が長引いてしまいます。
 とにかく、あせらず、ゆっくりと気長に待つことが大切なのです。

ball 発症9〜10ヶ月目
 母の様子は、相変わらずでした。
 担当医の話を聞いても、やはり、のんびりと休んでいてもらう、と言うことが基本のようでした。
 外出に関しては、担当医も、そろそろ大丈夫だろう、とは言ってくれましたが、母が乗り気になりません。まだまだ、気力が出てこないのでしょう。2週間に1回の診察以外、庭に出ることもありませんでした。
 発症前には、毎日のように面倒を見ていた庭の木や花も、まったく気にならないようでした。

 それでも母は、以前自分がしていたさまざまな日常の雑事について、少しずつ興味を取り戻したようでした。父がほとんどのことを処理していたのですが、ときどき口を挟むようになりました。

 これは、とてもいい傾向です。とにかくなにかのことが気になってきて、それがどうなっているのか確かめたくなるということは、気力が少し戻ってきたと証拠と考えられるからです。
 しかし、だからといって、自分でそれをしようとするところまでは、まだ行かないようでした。

 父の方は、そろそろ看病疲れが出ているようでした。
 それでも、父の場合、食料や日常雑貨などの買い物のとき、うまくストレスを発散していました。
 以前から、いろいろなものを見て回ったり、欲しいものを自分で買ったり、テレビゲームのソフトを買ってきて遊んだり、ということが好きでした。
 母の様子が安定しているので、少し長い時間でも、安心してのんびりと買い物が楽しめるようになってきたわけです。

 うつ病患者の家族は、患者と一緒にいるだけでも、相当に大きなストレスをかかえることになります。しかも、病期が長いので、看病疲れが蓄積しやすいと言えます。
 やはり、ストレス発散の方法を、ひとつでも見つけておくことが、家族自身の健康のためにも、とても大切なことなのです。

 私の父の場合は、比較的うまく対処しているようなので、そんなに心配はいらないようです。
 しかし、うつ病患者の家族の方で、疲れがたまった、眠りが浅い、目覚めが悪い、などと感じることが続いた場合には、早めに専門医に相談することが大切です。
 もし、家族までストレスの蓄積からうつ病になってしまったら、本当に大変なことになってしまいます。

 まだまだ母は、以前のような元気を取り戻していません。でも、恐ろしいうつ病の症状がまったく出ませんし、その兆候を感じることさえありません。
 きっと、母にとって、相性のいい薬があって、その効果が続いているのでしょう。
 こんな状態のなかで、母が順調に回復に向かってくれているのだとしたら、家族としては、喜ぶべきことなのかもしれません。

ball 発症11〜12ヶ月目
 発症してから、もう、かれこれ1年になろうとしています。
 母の様子は、相変わらずでした。やはり、ほとんどの時間、ふとんの上で過ごしています。まだまだゆっくりと休む必要があるのでしょう。

 担当医の方も、特に指示を出していません。やはり、母がなにかをしたいと言うようになるまでは、今のままの状態が望ましいようでした。
 薬に関しても、ときどき処方が少し変わる程度で、特に大きな変化は見られません。

 それでも、母の様子に、少し変化が現れました。近所の人がなにかの用事で来たとき、話をするようになったのです。
 少し前までは、すべて父まかせでした。父がいないときは、誰かが来ても、ほとんど無視しているような状態でした。やはり、ほんの少しずつですが、回復に向かっているようでした。

 ただ、心配なことも出てきました。
 長期間、寝たきりのような生活を続けてきたせいか、足がかなり弱ってしまいました。トイレへ行くときにも、ほかの部屋へ行くときにも、非常にゆっくりとしか歩けません。
 このままだと、本当の寝たきりになってしまうのではないか、そんなふうにも感じました。

 もちろん、薬の副作用もあるのでしょう。実際、担当医も、そのようなことを話していました。また、足のことは、そんなに心配しなくてもいい、とも言ってくれました。しかし、家族としては、不安なところです。

 うつ病は心の病、と言うことは確かです。しかし、免疫機能への影響もそうですが、身体運動面での影響も大きいのだと、あらためて思い知らされました。

 それにしても、発症後1年たってもほとんど変化がないということから考えて、母のうつ病は、かなり重いタイプなのだと考えざるを得ませんでした。
 うつ病は、半年で半数、1年で3分の2.の人が治ると言われています。
 残念ながら、私の母の場合は、どうやら残りの3分の1に入ってしまったようです。初老期うつ病ということもあるのかも知れません。

 父も、母の回復が遅いことを、気にかけ始めました。老期うつ病は長引きやすい、ということは知っているのですが、1年で3分の2の人が治る、.ということに、期待をかけていたようでした。

 私自身もそうでした。もしかしたら2〜3年程度はかかるかもしれない、とは覚悟していましたが、やはりすぐによくなるかもしれない、という期待は持っていました。
 しかし、そんなことを言っても仕方のないことです。
 ゆっくりと気長に、母の回復を待つしかないのです。






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