How to overcome depression
ball 16.もうこれ以上良くはならない?(発症2年目)ball



ball 発症13〜15ヶ月目
 とうとう1年が経ちました。
 しかし、母の様子は、相変わらずでした。ほとんどの時間、寝て過ごしています。もうそろそろ発症前のように、いろいろなことができるようになればいいのに、そんなふうに感じることもありました。父も少し、あせっているようでした。

 担当医も、そろそろリハビリ的な治療に入った方がいい、と判断したようでした。
 まずは、字を書くことを勧めました。さらには、父がすべてを行っている家事を、少し分担したらどうか、との話もありました。

 字を書くということで、はがきや手紙、いろいろな手続き上の書類作成などを、母が分担することになりました。しかし、手が震えて、なかなかうまく書けないようでした。
 まずは毎日字を書いてみる、ということから始めることにしました。これは母にとってかなり疲れることのようで、実際の手紙や書類を書く、というところまでは、まだまだ無理なようでした。

 家事の分担ということで、電話の応対も、母に任せることにしました。発症前は、すべて母が行っていたことです。母は、特に嫌がらず、電話の応対を始めました。
 最初は、口がもつれたり、相手の話がよくわからなかったりして、すぐに父に代わってもらう、ということも多かったのですが、しばらくすると、自分から電話をかけられるようになりました。
 どうやら、母にとっては、字を書く、ということよりも、電話の方が、はるかに楽なようでした。

 さらには、食事の後かたづけも、母にしてもらおう、ということになりました。
 しかし、足がひどく弱ってしまったせいで、なかなかうまくいかないようでした。どうやら、まずは歩くことのリハビリから始めなければならないようでした。
 しかし、母は、外を散歩することは嫌がりました。そこで、まずは毎日決まった時間、家の中を歩き回ることから始めました。

 うつ病患者が、1年以上のあいだ、寝たきりのような生活を続けている場合、このようなリハビリ的な治療が大切になってきます。
 もちろん、自殺企図や自傷行為、焦慮などの症状が続いている場合には、まだまだゆっくりと休む、ということが基本となるでしょう。このへんは、担当医とよく話し合う必要があります

 母の表情は、少し堅い感じはしますが、笑顔もよく出るようになりました。苦痛に満ちた表情はもう見られません。その意味で、かなり安定しているのでしょう。
 ただ、いろいろなことに対する気力、そして体力が、なかなか戻って来ないようでした。

ball 発症16〜18ヶ月目
 春から初夏にかけての、温暖な気候となりました。
 担当医も、そろそろ散歩程度は始めた方がいいと、強く勧めるようになりました。
 母の方も、暖かい気候になって、散歩をしてみようか、という気分になったようでした。

 よく晴れ上がった5月のある日、母は、父と一緒に近所へ買い物に出かけました。非常にゆっくりとした歩調でしたが、病院以外の場所に、やっと出かけることができたのです。
 距離にして、100メートル程度でしたが、30分くらいをかけて、無事に買い物を済ませることができました。
 しかし母は、この程度の買い物でも、とても疲れるようでした。かえってきて、すぐに横になりました。

 やはり、足が相当に弱っている、そう感じざるを得ませんでした。
 母にとって、家の中を歩き回ることは、そんなに苦にはならないようでした。ただし、歩調は、なかなか速くなりませんでした

 また、発症後、ずっと行っていなかったお墓参りにも、行く気になったようでした。そして、父の運転する自動車で、実際に行くことができました。母もずっと気にしていたようで、お参りができたことを、とても喜んでいました。

 しかし、外への散歩は、足が弱っていることや、昔からの知人と顔を合わせることが嫌なようで、あまり行こうとしません。

 それでも、動作はとても遅いのですが、食事の後かたづけは、父と一緒にするようになりました。
 本当にゆっくりとした調子でしたが、少しずつでもよくなっている、そんな感じは受けました。足がもっとしっかりとしてくれば、もう少しよくなるのかもしれません。

ball 発症19〜21ヶ月目
 発症してから1年半が過ぎました。
 少しずつよくなっているようには見えるのですが、そのあゆみは、本当にのんびりしたものです。
 いったいいつになったら、発症前の元気な母の姿が見られるのでしょう。そんな気持ちが、どうしてもわいてきます。

 母の足の方も、相変わらずでした。部屋の中を歩き回ったり、ときたま、父と一緒に散歩もするのですが、歩調が速くなることはありません。
 気力も体力も、まだまだ戻ってこないようでした。

 そんな母の様子を見て、古くからの友人の1人が、スポーツジムなどで見かける、ルームランナー(ランニングマシーン)をプレゼントしてくれました。
 プレゼントしてもらった当初は、母も、よくルームランナーを利用していました。
 しかし、ローラー部分の回転を軽くすると、すぐに転んでしまいます。重くすると、足が痛くなって、すぐに歩けなくなってしまいます。

 やはり、母のように足が相当に弱ってしまった場合、ローラー部分の回転の調整が難しくて、うまく利用できないのかもしれません。
 そんなことから、すぐにルームランナーは、使わなくなってしまいました。

 母は、話すことに関しては、かなり回復してきたようです。電話も、よく利用するようになりました。
 しかし、生活の基本となる、字を書くことと歩くこと、この2つは、ほとんど回復していません。特に足の衰えは、深刻です。もしかしたら寝たきりになる前兆かもしれない、などと考え出すと、家族としては、不安でいられなくなります。
 まだまだ、本格的な回復には、時間がかかるのかもしれない、そんなふうに考えざるを得ませんでした。

ball 発症22〜24ヶ月目
 母の足は、相変わらずでした。さらに、あまり運動をしないせいでしょう。少し太ってきてしまったようでした。こうなると、悪循環です。
 かかりつけの内科医で定期検査を受けたところ、中性脂肪の値が高くなっているとの指摘もありました。

 運動をしない、寝てばかりいる、体重が増える、ますます足が弱くなる、中性脂肪が増えてくる、脳血管障害や心臓病のリスクが高くなる、という具合に、心の面よりも、体の面で、悪い状態に陥っているようでした。
 あらためて、このままでは寝たきりになっしまうかもしれない、という恐怖を感じました。脳血管障害や心臓病の心配もありました。

 父はまず、食事についての改善を考えました。肉食を避け、野菜と魚中心の食事に切り替えて、中性脂肪を減らそうというわけです。

 さらに、足が弱っていることについては、スポーツジムなどにおいてある、電動式のルームランナー(ランニングマシーン)を買いました。ベルトコンベアーの部分が電動で動く、スピード調整ができるタイプのものです。
 これだと、スイッチを入れれば、自然と設定したスピードで歩かなければならなくなります。

 もちろん、母の運動能力に合わせて、微調整が必要です。また、転んでケガをしてしまっては大変なので、最初は、ずっと母のそばについていて、スピードを調整したり、スイッチを切ったりできるようにしていなくてはなりません。
 父はしばらくのあいだ、母の運動中、そばにつきっきりでした。
 それでも、1週間程度で、母はひとりで使えるようになりました。母は、毎日30分以上、ルームランナー上で、歩き続けました。

 そして、1ヶ月くらいたったときでしょうか。母の歩調がかなり改善されてきました。どうやら、父の思惑は、大当たりしたようでした。
 もちろん、元気なときと比べれば、まだまだです。それでも、足取りがしっかりとしてきて、ある程度の速度で歩けるようになりました。

 また、食事と運動の効果でしょうか、次の検査では、中性脂肪は、正常値に戻っていました。これで、体の面での心配は、かなり軽減されました。

 しかし、発症して、3年目が近づいてきたある日、担当医から、とてもショッキングな宣告を受けなくてはなりませんでした。
 それは、「もうこれ以上、良くはならないかもしれない」というものです。
 決して信じたくはないのですが、発症前の元気なころの母にはもう戻れない、と覚悟しておいた方がいいということのようです。

 母は、半年に1回ほど、脳のCT撮影を行っていました。その結果でも、脳の萎縮が認められたようでした。
 ただし、アルツハイマー型に見られるような、脳内の隙間(脳室)が増大しているわけではなく、頭蓋と脳との隙間が少し増えたようでした。また、脳血管性痴呆のように、脳梗塞が多数あるわけではありません。

 どうやら、外に出て歩き回る、とか、字を書く、などの運動の極端な減少が、脳の萎縮に結びついているようでした。

 確かに、話すことはしっかりしていますし、記憶の面でも、問題がありません。人の名前を忘れることもありませんし、食事の片づけなど、自動化された一連の作業にも、矛盾がありません。日付や時間を間違えることもありません。
 その意味では、アルツハイマーや脳血管性痴呆ではないようです。

 「もうこれ以上、良くはならないかもしれない」、この宣告は、大変にショックなことです。しかし、今よりはまだ良くなる可能性はある、と考えることもできます。
 このへんは、うつ病患者の家族にとって、あくまでプラス思考で行くことが、なによりも大切なことなのでしょう。

 家族の方も、あまりに悲観的になると、どうしてもうつ状態に陥ってしまいがちです。家族がうつ状態になってしまえば、患者にとっても、いいわけはありません。






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