How to overcome depression
ball 精神療法の種類と一般精神療法・簡易精神療法 ball



 うつ病の治療の基本は、「休養」「薬物療法」、それに「精神療法」です。
 このページでは、そのうちの「精神療法」について、説明させていただきます。
(薬物療法につきましては、「薬物療法1(向精神薬、抗うつ薬・抗うつ剤)」のページ、「薬物療法2(抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬、抗てんかん薬)」のページをご参照ください)。

ball 精神療法、心理療法、カウンセリング
 「精神療法」とは、医師や臨床心理士などのカウンセラーが、「言葉」を使って患者の心に直接働きかけ、患者の苦痛を取り除いていく治療法のことです。英語では、psychotherapy と表記されます。
 「心理療法」という言い方もありますが、同じ意味だと考えていいでしょう。ちなみに、英語にすれば、「心理療法」も同じ psychotherapy です。
 「カウンセリング」という言葉も、うつ病など、心の病気の治療として行われる場合は、同じ意味となります。

 うつ病の治療では、「薬物療法」によって、さまざまな症状を改善し、社会生活が送れるようになるまで、精神力を復元させることが基本となります。
 しかし、「薬物療法」だけで、治療がうまくいくわけではありません。
 患者とのあいだにしっかりとした信頼関係(「ラポール」と言います)を作り、患者が安心して治療を受け続けられるように、さまざまな配慮が必要となってきます。

 たとえば、患者の話をよく聞いたり、適切なアドバイスをしたり、仕事や生活面での相談を受けたりといった、言葉による治療が大切になります。
 また、「薬物療法」によって症状が治まっても、発症前と同じ生活環境のなかに戻り、同じ考え方で行動し続けると、「再発(再燃)」の危険性があります。

 うつ病患者特有の考え方(「認知のゆがみ」と言います)を見つけ出し、修正していくことは、「再発(再燃)」を防ぐ上でとても大切です。
 同様に、うつ病発症の重要な原因だと考えられる心理的な問題を解決していくことも、「本当の意味での治癒」ということを考えると、とても重要になってきます。

 このように、医師やカウンセラーと患者のあいだの、言葉を介した一連の治療過程が、「精神療法」です。

ball 代表的な精神療法の種類
一般精神療法(簡易精神療法、カウンセリング)
認知療法
行動療法
精神分析療法
家族療法(家族カウンセリング)
箱庭療法・遊戯療法
 「精神療法」には、さまざまな技法があります。上記にあげた治療法以外にも、多くの方法があります。それぞれに特徴があり、医師やカウンセラーにも、得意不得意があります。
 また、患者にとっても、理解のしやすさ、時間的制約、年齢的制約、性格的な面での向き不向きがあります。
 「精神療法」を受けるに当たっては、医師やカウンセラーとよく話し合い、もっとも合うと思われる方法を選ぶことが大切です。

ball 精神療法の選び方
 たとえば、発病前や、症状が出ていない安定している時期にも、悲観的な思考にとらわれやすい、なんとなく無理をしていないと気がすまない、いつも自分は怠けていると感じる(認知のゆがみ)、という場合には「認知療法」が適しているでしょう。

 幼少期の親との関係が複雑(機能不全家庭など)で、どうしても自分自身を受け入れられない(自己肯定感の欠如)、身近な人も含めて他者の気持ちがわからない(共感の欠如)、自分が何をしているのかわからなくなる、心や行動がコントロールできない、大きな問題を抱えた家族のせいで疲れきっている、という場合には、「精神分析療法」「家族療法」が効果的だと思われます。

 話すことが苦手で、治療者と対面したときに緊張してしまう、年齢的にカウンセリングが難しい、という場合には、「箱庭療法」「遊戯療法」を受けることも考えておくべきだと思います。

 ひとりで人混みの中に出られない、ひとりで電車やバスに乗れない(広場恐怖)、人前で話すことができない、人の視線がいつも気になる(対人恐怖・社会恐怖)、特定のものや場所が恐い(単一恐怖)などの症状をなるべく早く改善したいという場合には、「行動療法」が、最も早く効果が得られます。

 ただし、うつ病の治療では、もっとも基本的な「一般精神療法」(簡易精神療法)と、うつ病の治療のために開発された「認知療法」が、精神療法の基本になると考えていいでしょう。

 このページでは、「一般精神療法」(簡易精神療法)について、詳しく説明させていただきます。
 その他の治療につきましては、「認知療法と認知のゆがみ・自動思考・スキーマ」のページ、「家族療法とシステムズ・アプローチ」「箱庭療法・遊戯療法」のページをご参照ください。

ball 一般精神療法(簡易精神療法)
 「一般精神療法」というのは、医師が患者の話を聞き、いろいろなアドバイスをしたり、患者からの質問に対して、適切な説明をしたりすることです。
 内科や外科など、ほかの診療科目で行う一般的な診察や「インフォームド・コンセント」(患者が納得できるような医師の詳しい説明)と基本的には、同じです。
 体系的な方法論を持った「精神療法」の技法を使わないことから、「簡易精神療法」とも言われます。

 しかし、精神科や心療内科の医師は、心の病気を持つ患者と対応するので、ほかの診療科目とは違う、さまざまな配慮をしなくてはなりません。
 その意味で、「精神療法」の一つだと考えられるわけです。

 最初の診察のときを考えてみましょう。
 治療を始めるに当たって、患者はさまざまな不安を抱えています。
 特にうつ病の場合、「薬を飲んでも治らない」とか、「副作用が怖くて飲めない」、「薬を飲んだらおかしくなってしまう」など、症状の一つである「悲観的な思考」がいつも渦巻いています。

 また、やはり症状の一つである「自責の念」から、「上司や同僚に迷惑をかけている」、「家族に心配をかけて申し訳ない」などの思考にとらわれがちです。
 さらに、「すぐにでも仕事に復帰しなければ」とか、「少しのあいだでも家族のことを放っておけない」、「やることがたくさんあって、休んでいるひまはない」などの焦慮(焦りの気持ち)、が強く出ていることもあります。

 最近少なくなったとはいっても、「精神科」という診療科目に対する誤解や先入観、偏見などから、ひどく緊張したり、怖がったりする患者もいます(「心療内科」の場合は、ほとんどないようです)。
 特に中年以降、初めて「精神科」で診察を受ける場合など、この傾向が強くなります。
 このように、患者がきちんとした治療を続けられるように、医師やカウンセラーは絶えず気を配る必要があるわけです。

 たとえば、患者が安心して話せるよう、「受容」的な態度を心がけます。患者の話をよく聞き、その苦痛を理解し、「共感」します。さらに、なにかと悲観的で自己否定的になってしまっている患者の存在を肯定し、「尊重」します。

ball 支持療法、共感療法、来談者中心カウンセリング
 これは、現代のカウンセリングの基礎を築いたカール・ロジャーズの「来談者中心カウンセリング」(非指示的カウンセリング)の考え方を取り入れたものです(ロジャーズや来談者中心カウンセリングに関しましては、「サイストリー」第2章 1.心理療法からの発想のページにも説明があります。ご参照ください)。
 患者の気持ちを支持し続けることから「支持療法」、患者の気持ちに共感し続けることから「共感療法」などと呼ばれることもあります。

 患者の前では、精神科医や心療内科医は、専門のカウンセラーが行うカウンセリングと同様の「精神療法」を、絶えず心がけているわけですね。

ball 精神療法とカウンセラー、セラピスト
 さて、今度は、臨床心理士など、専門のカウンセラーが行う「一般精神療法」についてご説明しましょう。
 なかには、それなりの時間をかけて、きちんとした「精神療法」を行う医師もいますが、そんなに多くはありません。たいていは「簡易精神療法」という名称の方がふさわしく感じるような、短時間の診察で終わる場合が多いと思います。

 日本の健康保険制度のもとでは、時間のかかる精神療法を医師が行った場合、病院や医院などの医療機関の運営が難しくなるというシビアな問題があります。
 また、精神科医や心療内科医は、医療行為を行うための勉強や訓練は受けていますが、本格的な精神療法(カウンセリング)を行うための「教育分析」(スーパーバイジー)は、通常受けていません。

 そんな理由から、「精神療法」だけを専門に行う臨床心理士などのカウンセラーがいる病院や医院もけっこうあります。
 カウンセラーの熟練度や技量も大切なことですが、医師とカウンセラーが協力して治療するという環境は、理想的だと言えるでしょう。

 精神療法だけを行う「心理療法センター」、「セラピー・ルーム」、「カウンセリング・ルーム」などもあります。精神科医や心療内科医がいる医療機関と提携しているところもありますが、単独で運営されているところもあります。
 たいていは、臨床心理士や、なんらかの心理士の資格を持つ人、海外で心理療法家の修行を積んだり、カウンセラーの資格をとったりした人が、精神療法を行っています。

ball 患者とクライエント
 さて、医師ではない治療者、たとえばカウンセラーが治療を行う場合、「患者」とは呼ばずに「クライエント」「来談者」という意味です)と呼ぶ方が一般的です。
 ただし、病院内で精神療法が行われる場合には、「医師」の監視の元ということで、「患者」と呼ばれることも多いでしょう。

 本来、「患者」は「医師」との対語で、「心理療法家(カウンセラー)」との対語が「クライアント」(来談者)です。
 あまり気にしなくてもいいことですが、医療機関以外の場所で治療を受けるときには、「クライエント」(来談者)と呼ばれる、ということは知っておいた方が混乱しなくて済むと思います。

ball カウンセリングとセラピー
 注意が必要な点は、「カウンセリング」「カウンセラー」「セラピー」「セラピスト」という名称でしょう。
 精神療法とまったく関係がなくても、「セラピー」とか「カウンセリング」という言葉は使われています。同様に、「セラピスト」や「カウンセラー」と名乗っていても、精神療法を行わない人もいます。

 もちろん、「サイコセラピー」とか「心理カウンセリング」、同様に「サイコセラピスト」とか「心理カウンセラー」という場合は、ほぼ間違いなく「精神療法」を行ってくれますので安心です。
 しかし、省略して「カウンセリング」や「カウンセラー」、「セラピー」、「セラピスト」という場合の方が多いですね。

 「セラピー」は「癒し」、「カウンセリング」は「相談」という意味があります。
 たとえば、「セラピー」では、「フラワー・セラピー」、「アロマ・セラピー」(アロマ・テラピー)、「カラー・セラピー」、「森林・セラピー」、「ツボ・セラピー」、「ストーン・セラピー」など、いくらでもあります。
 これらのセラピーを行う人も、「セラピスト」というわけです。

 「カウンセリング」も、「教育カウンセリング」、「キャリア・カウンセリング」、「エステティック・カウンセリング」、「運命・カウンセリング」など、たくさん使われています。

 日本では、「カウンセラー」や「心理療法家」、「セラピスト」など、精神療法を行うための国家資格がありません。有名な「臨床心理士」も、「日本臨床心理士資格認定協会」という財団法人が資格の認定を行っています。
 そのほかの「認定心理士」「認定カウンセラー」なども、民間団体が資格を認定しています。

 結局、「カウンセラー」や「セラピスト」という名称は、精神療法や心理療法と関係がなくても、ふつうに使われるということです。

ball 一般精神療法(簡易精神療法)とは
 それでは、本題に戻りましょう。
 一般精神療法(簡易精神療法)というのは、簡単に言ってしまえば、治療者が患者の話をよく聞く、ということになります。特にうつ病では、患者はさまざまな苦痛を抱えています。その苦痛の内容について、患者が思いつくことを話してもらいます。

 うつ病などの心の病気では、患者の多くは、誰にもわかってもらえない、という気持ちを持っているものです。また、現在抱えている問題について、どうにもならない、解決のしようがない、などと考えています。

 ここで治療者が受容的な態度で接し続けていると、まずは自分のつらさをわかってもらえた、という「安心感」が生まれます。
 さらに、治療者は、患者の何が問題なのか、それに対してどんな解決を望んでいるのか、適度に受け答えしながら、患者自身が問題を解決できるように導いていきます。
 この、患者が自ら解決にいたるように導くための受け答えは、非常に重要です。

 患者のなかには、困難な問題を直視しなくてもすむように、治療者を無視することもあります。まったく関係ない話をして、問題の核心から目をそらし続ける場合もあります。また、誰が悪い彼が悪いと、延々と他者の非難や他者に対する怒りなどを話し続けることもあります。自分自身やこの世に対する絶望感を話し続ける、という場合もあります。

 どんな場合でも治療者は、患者の状態を見つめ、患者が自分自身の心の問題に気づくように導いて行かなくてはなりません。精神療法は、いつもこのような方向づけを考えて進められます。

ball 転移・逆転移と治療者との相性
 また、治療者は、患者との関係がどのような状態にあるのか、常に意識している必要があります。たいていの患者は、治療者に対して、「転移」(感情転移)を起こします。この転移がどのようなものなのか把握していないと、精神療法自体が危険なものになってしまう可能性があるからです(感情転移につきましては、きまぐれコラムの「感情転移と転移性治癒」をご参照ください)。

 特に「スーパー・バイジー」(教育分析)をきちんと受けていない、言いかえれば、自分の心の問題を解決できていない治療者の場合、患者に対して、転移を起こしやすくなります(このような転移を、特に「逆転移」と言います)。
 転移と逆転移が複雑に絡み合うと、治療者が患者に振り回されて感情的になってしまったり、患者の症状がひどくなったりして、治療が進まなくなってしまいます。

ball 負の転移(陰性転移)と正の転移(陽性転移)
 精神療法でよく言われる患者と治療者との相性の問題は、この転移によるところが大きいと言えるでしょう。特に怒りや憎しみの感情が転移する「負の転移」(陰性転移)が強く出たときは、治療は困難になりがちです。
 プラスの感情である愛情や尊敬の「正の転移」(陽性転移)の場合でも、治療者が逆転移を起こしてしまうと、非常にややこしいことになります。

 このように治療者は、いつでも患者の様子を観察しながら、どのような問題があるのか理解しようとつとめ、さらには会話のなかから、患者自身が気づくようにし向ける必要があるわけです。転移についても、うまくコントロールして、治療が進むように絶えず注意をする必要があります。治療者の力量は、このへんにあると考えていいでしょう。

 患者の方は、治療者に対して嫌な感じがする、落ち着けない、などの気持ちを感じたとしたら、素直に話すべきです。このような感情の動きを治療者と共有することで、治療が進む場合があります。
 また、ほかの治療者と交代してもらうことも、もちろん可能です。






うつ病との闘い方 トップへ


著作権は、すべて著者にあります。無断転載・無断コピー等は、堅く禁止させていただきます。
Copyright (C) 2001-2014 Yuki Tachibana All Rights Reserved

produced byYuki Tachibana