How to overcome depression
ball 家族療法とシステムズ・アプローチ ball



 このページでは、精神療法のひとつ「家族療法」を中心に、関連領域である「システムズ・アプローチ」「サイバネティクス理論」についても、お話を進めていきたいと思います(その他の「精神療法」につきましては、「精神療法1 精神療法の種類と一般精神療法・簡易精神療法」のページをご参照ください)。

 「家族療法」は、アメリカで1950年代に生まれた、比較的歴史のある精神療法です。「家族カウンセリング」「家族セラピー」「ファミリー・セラピー」とも呼ばれます。
 「家族療法」の考え方の基本は、家族を「システム」としてとらえるところです。家族ひとりひとりは、家族というシステムの成員(メンバー)になります。

 たとえば、家族のひとりが「うつ病」などの心の病気にかかった場合、患者だけを治療するのではなく、家族全体を治療対象としてとらえます。患者ひとりに治療を行っているときにも、家族全員に対する治療を念頭に置きます。

 ほかの精神療法では、病気の原因であり、解決すべき問題点は患者の心のなかにあると考えます。そこを家族療法では、「家族システム」の問題としてとらえます。
 つまり、「家族システム」のなんらかの問題点が、成員(メンバー)のひとりの病気として発現する、と考えるわけですね。

ball IP(Identified Patient)
 家族療法では、実際に病気になった人を、患者(クライエント)とは呼ばずに、「IP」(Identified Patient)と呼びます。初めに問題や症状を訴えた人のことであり、たまたま家族の関係性の問題を背負って病気になった、というような意味が込められています。
 IPは、病気になった原因を自分の問題だと訴える場合もありますし、ほかの人のせいで病気になったと訴える場合もあります。

ball 直接的因果律と循環的因果律
 ここで大切なのは、問題点が家族の特定のメンバーにある(こういう考え方を「直接的因果律」と言います)と考えないことです。問題点は、あくまで家族どうしの関係のなかにある、と考えます。
 要するに、原因追及として、家族の誰かが悪いと言った「悪者捜し」をしない、と言うことです。

 家族メンバーは、それぞれの「相互作用」のなかで生きています。メンバー間の関係が希薄に見えたとしても、まったく影響がない、と言うことはあり得ません。
 家族ひとりの変化は、家族システム全体に影響します。全体の変化は、家族ひとりひとりに変化を起こします(このような「部分」と「全体」の関係を「循環的因果律」と言います)。

 実際の治療では、家族全員を呼ぶこともありますし、患者本人だけとか、両親だけなど、さまざまな組み合わせで行われます。

 たとえば、子供が不登校や暴力行為などの「不適応」(適応異常)を起こした場合など、母親がカウンセリングを受けることで解決するというのは、よくあることです。
 反対に、子供のカウンセリングによって、親のうつ状態が改善することもあります。
 夫婦の場合でも、妻が全般性不安障害やパニック障害、身体表現性障害を発症した場合、夫のカウンセリングが症状の改善に結びつくこともあります。

ball システムズ・アプローチ
 家族療法の一つに、「システムズ・アプローチ」という考え方があります。
 誰でも、他人との関わりのなかで生きています。そうした関係性のまとまりをシステムとしてとらえ、さまざまな問題に対応していこうという考え方が、「システムズ・アプローチ」です。

 「システムズ・アプローチ」は、もともと「システム理論」「経営工学」などから発展してきたもので、企業や医療機関、教育機関など、さまざまな組織や団体の問題を解決し、よりよいシステムを実現するための方法論でした。
 家族療法でも、家族をシステムとしてとらえるところから、この「システムズ・アプローチ」の考え方が取り入れられるようになってきました。
 また、近接領域として、教育や福祉などの「ケースワーク」でも使われています。

 特定の個人の問題だと考えられるようなことであっても、その人が属する「組織」(システム)、たとえば、会社の部署や学校のクラス全体の問題としてとらえ直してみると、まったく違った問題として見えてきます。
 それは、システムの成員(メンバー)それぞれが、ほかの成員に対して、さまざまな影響を及ぼしあっているからです。

 「システムズ・アプローチ」を行う人を、「システム・セラピスト」と呼びます。
 「システム・セラピスト」は、システム成員間の相互作用がどのようなものであるのか、また、それぞれの相互作用をどのように方向づけることで問題が解決に向かうのか、いつも意識しながら、システムと関わっていきます。

 この「システムズ・アプローチ」は、さまざまな分野の問題解決方法として、実際に行われています。
 たとえば、ある企業で大きな問題が発生したとします。
 外部の人間から見ると、原因が追及され、直接の担当者やその上司、役員、代表が処分を受け、終わりになります。しかし、それだけでは、根本的な解決法とは言えません。
 なぜなら、どうしてそのような問題が起きたか、企業という組織(システム)全体の問題として考えなければ、再発を防ぐことができないからです。

 ここで「システムズ・アプローチ」の考え方を取り入れて考え直してみると、原因が担当者や直属の上司だけにあるわけではない、とわかってきます。
 たとえば、社内の危機管理に関する見解が部署によって異なっていたとか、派閥人事のせいで社内の監視機構が機能していなかったとか、問題を起こした担当者に対して、実現不可能なノルマを強制していたとか、さまざまな問題が見えてきます。
 このような問題を解決するためには、システム全体が変わらなければなりません。つまり、各社員や役員の関係性についての見直しが必要になるわけです。

ball システムズ・アプローチと家族療法
 システムズ・アプローチと家族療法についての説明に戻りましょう。
 家族療法としての「システムズ・アプローチ」は、ほかの心理療法とは、かなり異なってきます。

 たとえば、「システム・セラピスト」は、治療者と患者(クライエント)、というような1対1の関係を持ちません。対象となるシステムの成員(メンバー)となります。
 そして、家族システム内部から、システム全体が変化していくように援助(操作)するわけですね。

ball ジョイニング
 システム・セラピストが成員となることを、特に「ジョイニング」と呼びます。
 「ジョイニング」は、「仲間入り」というような意味です。通常の精神療法(カウンセリング)で言えば、「ラポール」(治療者と患者・クライエント)の良い関係)の構築の段階ですね。

 次に、家族システムの分析を行います。家族システムがどのような構造や力関係を持っていて、どの関係性に注目すれば、もっとも効果的な介入や援助ができるのか、見つけ出すわけですね。

 このとき、さまざまな方法がとられますが、一般的には、関係性を理解するために、システム・セラピストを交えて、「相互交流」をしてもらいます。具体的には、一緒に食事をしたり、一緒に運動をしてもらったりして、交流がどのように行われているのか、確かめていきます。

ball エナクトメント
 また、それぞれの成員にさまざまな質問をして、家族システムを理解していきます。このようなシステムの分析や解釈を、「エナクトメント」と呼びます。
 この「エナクトメント」は、システム・セラピストが分析や解釈をするためだけに行われるわけではありません。「エナクトメント」を行うことにより、それぞれの成員が、家族システムの状況や環境を知り、理解していく過程にもなります。

 システム・セラピストが「ジョイニング」に成功し、家族システムに入り込んだあとは、「認知療法」「行動療法」「遊戯療法」など、さまざまな精神療法の手法を使って、家族システムが良い方向へ変化していくように、方向づけていきます。

ball 家族システムの変化と発展
 家族システムは、環境の変化や時間の経過とともに、「変化・発展」していきます。
 たとえば、実家から独立して結婚、そして最初の子供が生まれるまでの時代、
 次に子供が生まれ子育てを行う時代、子供が青年期になった時代、子供が成長して少しずつ自立していく時代、中年期の年老いた親との関わりの時代、子供が独立する時代、老年期の時代など、家族システムの「変化・発展」は、絶えず続いていきます。

 家族システムの、それぞれの時代の移り変わりに対して、実際のシステムの変化や発展がうまくいかないと、さまざまな問題が起こってきます。
 このような問題が解決されずに積み重なってしまうと、家族の誰かが病気になる、と考えられるわけです。
 「家族療法」が目標とするのは、積み重なってしまった問題を解決し、家族システムの滞ってしまった変化や発展をもう一度うながすことだと言えるでしょう。

ball 家族療法とサイバネティクス
 家族システムの変化と発展について、もう少し専門的に考えると、「サイバネティクス理論」とつながってきます。
 「サイバネティクス」「サイバネティックス」とも表記されます)は、アメリカの数学者ノーバート・ウィーナーが1948年頃発表した学問体系です。「人工知能学」と訳されることもあります。ギリシャ語の「舵取り」の意味から名づけられました。

 「サイバネティクス」とは、ある目的のために、生体が生得的に持っている「自動制御のプロセス」を、技術や工学その他の分野で応用しようとする研究です。
 生体は、ある目的のために情報を集めて処理し、どのような行動をするのか決定し、行動に移します。行動の結果は、「フィードバック」され、情報として戻されます。さらに、新たな情報を処理し、行動を決定します。あとは、この繰り返しです。
 生物の行動(思考も含めて)を細かく分析すると、このような循環的なプロセスを通して、自分自身を「制御」していることがわかってきます。

 たとえば、人間の二足歩行も、非常に複雑ですが、自動制御のプロセスとして解析されています。最近よく見かけるようになったヒューマノイド型のロボットは、そのような自動制御プロセスを、工学的に実現したものです。
 思考や学習という機能を電子工学や技術の世界で実現しようとしているのが、「人工知能」(AI)です。その基礎には、「サイバネティクス」があるわけです。

 「サイバネティクス」は、個体としての生物だけでなく、動物の群れや生態系、人間の家族や組織などにも応用されます。家族システムの変化を、「サイバネティクス」で説明することもできるわけです。

ball 第一次変化と第二次変化 
 さて、サイバネティクスの自動制御プロセスを、家族システムの問題解決の過程に当てはめて考えてみましょう。

 家族の内外に起きた問題に対して、家族システムは、まず、問題が起きる前の安定した状態に戻ろうとするような変化を起こす、と考えられます。
 これは、「ホメオスタシス」(恒常性)に基づく変化で、「第一次変化」と呼ばれます。小さな問題であれば、有効な方法です。フィードバックされた情報を自動制御プロセスが取り込んで、制御できている状態と言いかえてもいいでしょう。

 しかし、システムを構成する家族メンバーはそれぞれ年齢を重ね、また、生活環境は絶えず変化しています。家族システムを取り巻く環境も、時間の経過とともに、絶えず変化を続けています。

 この家族システムの内外の変化に対して、家族システムが安定した状態を保ち続けようとしても、うまくいかない場合も出てきます。大きな問題にぶつかったときは、さらに困難となります。
 要するに、フィードバックされた情報に対して、自動制御プロセスが対応しきれなくなった状態ですね。家族システムがうまく機能しなくなった場合、いわゆる「機能不全家庭」となります。

 このような状況を打開するためには、家族システム自体の変化(「内的構造の変化」)、または自動制御プロセスの変化(「家族システムの質的な変化」)が必要となります。要するに、家族システムの「成長・発展」です。
 この変化(成長・発展)を「第二次変化」と呼びます。

 「家族療法」というのは、この「第二次変化」をもたらすことだと言えます。






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