How to overcome depression
ball 箱庭療法と遊戯療法 ball



 このページでは、主に子供の「精神療法」として利用されている「箱庭療法」「遊戯療法」について、説明させていただきます(その他の「精神療法」につきましては、「精神療法1 精神療法の種類と一般精神療法・簡易精神療法」のページをご参照ください)。

1.箱庭療法
 「箱庭療法」は、1929年、イギリスの小児科医ローエンフェルトが、子供のための心理療法として考え出したものです。それを、ユング派の心理療法家ドラ・カルフ「砂遊び療法」として発展させました。
 後に、日本の心理療法の第一人者であり、ユング派の心理療法家でもある河合隼雄氏が日本に持ち込み、「箱庭療法」と名づけました。

 その方法はいたって簡単で、52cm×72cm、高さ7cmの長方形の箱に砂を入れます。さらに、動物や植物、建物などのさまざまなおもちゃ、人形などを用意して、適当な場所においておきます。
 患者(クライエント)は、箱庭のなかに、先ほど説明したおもちゃや人形を自由に使って、遊びながら自分自身の内的世界を表現していきます。

 「箱庭療法」では、治療者は、特になにもしません。患者(クライエント)を見守る役に徹します。
 この「見守る」ということには、深い意味が込められています。治療者は「見守る」という行為を通して、患者(クライエント)の状態を深く理解していきます。また、患者(クライエント)は治療者に見守られていることで、安心して自分自身の内面を表現することができます。

 1回の治療単位をセッションといいますが、患者(クライエント)が箱庭を見つめるだけで、なにも表現しないセッションもあります。また、ただ砂にさわって砂遊びをしているだけのセッションもあります。
 こんなセッションのときでも、治療者は特に指示をしないで、見守り続けます。

ball ゲニウス・ロキ
 「箱庭療法」では、「ゲニウス・ロキ」というものを重要視します。
 古代ローマ人の思想では、「ゲニウス」は「精霊」、「ロキ」は「土地を表していました。「ゲニウス・ロキ」で、その場所や土地に宿る「精霊」という意味になります。
 その時その場に宿った力(精霊)が、無意識の深い心(深層心理)の神話的な力と結びつき、それが創造力となって、「箱庭」に表現されていきます。

 この「ゲニウス・ロキ」を実現することが、治療者の「見守る」という行為です。実際になにもしないとは言え、大きな精神力が必要とされます。
 治療者の技量が問われるのは、ここのところです。ただ「見守る」とは言っても、治療者ではない一般の人が「見守る」のとは、異なるわけですね。

 「箱庭」になにも表現されないセッションでも、治療者が作り出した「ゲニウス・ロキ」のなかで、患者(クライエント)の内面では変化が起きています。それが、次回以降のセッションで現われてきます。

ball 青年や大人にも有効な箱庭療法
 近年になって、「箱庭療法」は、青年や大人に対しても効果があることが確かめられてきています。患者(クライエント)が、治療者と向き合ったときに強く緊張してしまう場合など、とても有効な手段となります。

 また、患者(クライエント)が治療の進展を疑うような性格の場合、目で見える変化の過程として確認できるので、効果的です。
 「箱庭療法」では、1回のセッションごとに、できあがった作品を写真に撮っておきます。治療が進んだ段階で、それらをスライドにして、変化の過程として確認することができるからです。
 このへんは、「絵画療法」(箱庭に表現するのではなく、患者(クライエント)に画用紙とクレパスを渡して、絵を描いてもらう治療法)でも同様です。

 ただし、「箱庭療法」でも「絵画療法」でも、青年や大人の場合、芸術的・美術的要素がからんでくることがあります。
 要するに、「芸術的、またはきれいな作品に仕上げよう」という、意識的、無意識的な衝動が働いてしまう場合です。
 一種の「防衛機制」であって、「自分の内面をありのままに表現する」ことから逃れようとするわけですね(「防衛機制」に関しましては、きまぐれコラムの「防衛機制ってなあに?」をご参照ください)。

 このようなケースでは、治療者が指示を出す場合もあります。
 ただし、治療者の作り出す「ゲニウス・ロキ」の働きで、自然と患者(クライエント)が、自分の内面を表現できるようになることが、もっともいい方法です。

ball ユングと箱庭療法
 ユングと「箱庭療法」、実はとても深いつながりがあります。
 ユングは、もともとフロイトの下で、精神分析の研究をしてきました。しかし、フロイトとは、様々な要因があって、決別することとなります。
 フロイトは、ユングを自分が創設した精神分析学の第一の後継者と考えていましたし、ユングもフロイトを尊敬し、実際の父のように慕っていました。

 実際、「国際精神分析学協会」の初代会長は、ユングが務めました。
 しかし、このことから、フロイトのほかの弟子たちとの確執が生まれました。ユングより前からフロイトの下にいた弟子たちの反感を買ったわけです。
 さらに、ユング自身が自伝のなかで語っていますが、あくまで「リビドー」(性衝動)だけを中心にしたフロイトの解釈には、納得できない部分がありました。
 ユングにとって、リビドーは、無意識にある「神話的な創造力」の1部分に過ぎなかったのです。

 様々な要因が重なって、フロイトの下を去ったユングは、しばらくのあいだ、精神病(統合失調症)のような、精神の危機状態に陥ります。
 エレンベルガー「創造の病」と名づけた、ユングにとって、その後の人生を築く上で非常に重要な、魂の試練とも言える時期です。

 ユングはこの精神の危機を乗り越えるために、ある遊びを始めます。
 それは、ユングが好んで幼少期に行っていた、石を積んで家や城を建てる遊びでした。

 当時のユングは、幻覚のような古代的、神話的なイメージが次々に浮かんできて、その意味を探るひまさえないような状態でした。
 そんななか、医師の仕事の合間を見つけては、家の庭に続いている湖畔で、石遊びを続けていました。

 ユングは、この石遊びを通して、当時のユング自身に欠けていた、少年の心が持つ創造的な生命力を感じ取っていたのです。
 青年や大人にも「箱庭療法」が有効なのは、この当時のユングのことを考えれば、当然のことと言えるでしょう。


2.遊戯療法
 「箱庭療法」とも通じることなのですが、言葉が未発達で、自分の気持ちをうまく表現できない子供の治療法として開発されたのが、「遊戯療法」です。
 おもちゃなどを使って、治療者と子供が一緒に遊ぶことが治療となります。

 子供が抱える問題の多くは、「遊戯療法」の対象となります。
 たとえば、不登校や消化器関連の病気、アトピー、ぜんそく、緘黙(しゃべらなくなること)、自閉、ADHD(注意欠陥多動性障害)などです。

ball 子供と遊び
 子供にとって、「遊び」とは、生活そのものです。「遊び」のなかで、自分自身の創造力を発揮して、心の内面を表現したり、逆に、外界のさまざまなことを学んでいったりします。
 大切なのは、子供は「遊び」を通して、自分自身の心を癒し、また成長していくということです。

ball 空想と現実
 さて、幼少期の子供の心を理解する上で、とても大切な概念があります。
 それは、「空想と現実」です。
 幼少期の子供の心は、「空想と現実」が混ざっていて、年齢とともに「空想」の割合が減り、「現実」の割合が増えていきます。
 たとえば、1、2歳程度では、「空想」が90パーセント以上です。小学校入学のころで、空想と現実がだいたい半々となります。その後も、成長とともに「現実」の割合が増えていきます。

 この「空想」と「現実」の関係、子供どうしの遊びをじっくり見ていると、すぐにわかります。
 チャンスがあったら、幼児が一緒に遊んでいる様子を観察してみてください。
 注意して見ていないと気づかないかもしれませんが、幼児は、一緒に遊んでいるようで、実はひとりで遊んでいる割合のほうがはるかに多いのです。

 幼児が仲良く一緒に遊んでいる、誰が考えても、とてもほほえましい光景ですが、実際には、ほとんどコミュニケーションをとっていません。
 ひとりひとりが、同じ場所で違う遊びをしている、そんな感じです。たまに声をかけ合って話をするのですが、それぞれの話の内容はバラバラです。

 「遊び」は、幼児ひとりひとりの、内的世界を表現する場です。「遊び」という表現を通して、幼児は自分の内的な世界をどんどん豊かにしていく、と考えてもいいでしょう。
 しかし、「内的世界を表現する」とは言っても、いつでもうまくいくわけではありません。

 たとえば、積み木で遊んでいる場面を考えてみましょう。とがった積み木の上にほかの積み木を置こうとしても、うまくいきません。
 高く積もうとしても、土台がしっかりしていないと、すぐに崩れてしまいます。自分が使いたいと思っていた色と形の積み木を、すでにほかの子が使ってしまっていたりします。
 これが、現実との接点であり、すぐには思い通りにならないことがある、という理解を通して、成長していくわけです。

ball 幼児どうしのコミュニケーション
 また、一緒に遊んでいる特定の子供に対して、興味を向けるときもあります。
 ひとりの幼児が、ほかの幼児にちょっかいを出したり、話しかけたりすることです。無視されたり、嫌がられたりすることもありますが、相手の子供も意識を向け、一緒に騒ぎ出すこともあります。

 でも、幼児同士のコミュニケーションは、大人の世界とは違います。ひとりが話したことを理解したように見えても、全然違う反応をしたりします。
 また、はたから見て、明らかにわかっていないはずのことを、すべてわかったように反応することもあります。

 こんな形で、幼児どうしの遊びは続いて行きますが、別れるときには、次の日も一緒に遊ぼうね、と約束したりします。
 やはり、一緒に遊ぶというのは、ひとりで遊ぶのとは違うなにかがある、ということなのです。このことは、とても大切です。「遊戯療法」の意義も、ここから生まれるからです。

ball 自我心理学、対象関係論と精神分析的遊戯療法
 「遊戯療法」は、もともと、フロイトの末娘で「自我心理学」の創設者アンナ・フロイト「対象関係論」で有名なメラニー・クラインなど、精神分析学派の「児童心理分析の手法」として開発されました。今では、「精神分析的遊戯療法」などと呼ばれます。

 遊戯療法には、大きく分けて、「個人遊戯療法」「集団遊戯療法」があり、それぞれの特長を生かした治療が行われています。
 近年では、行動療法、ロジャース派の来談者中心療法など、さまざまな流派で遊戯療法が行われるようになりました。なかでも、ロジャース派のアクスラインが提唱した「児童中心的遊戯療法」の考え方は、遊戯療法を行う治療者に広く取り入れられています。

ball アクスラインの8つの原則
子供と良い関係(ラポール)を作る
子供の存在をあるがままに受容する
子供を許容し、自由な雰囲気を作る
子供の感情を敏感にとらえ、適切に応答し、子供の洞察をうながす
子どもに自信と責任を持たせ、自分の問題は自力で解決できると信じて疑わない
子供に対して指示や命令をせず、子供の自主性を尊重し、子供に従うようにする
治療はゆっくり進むものである。子供のペースに合わせ焦らずに待つ
子どもには最大限の自由が与えられるが、安全や健康を守り、望ましい治療関係の存続と子供の成長促進のための「制限」をする。
 この「アクスラインの8つの原則」を見れば、遊戯療法がどのような考え方で進められているか、よくわかると思います。
 「遊戯療法」は、治療者と子供の心と体のコミュニケーションが中心となるわけですが、治療者の姿勢としては「箱庭療法」とほぼ同様になるわけですね。
 また、アメリカの「遊戯療法」では、言葉によるコミュニケーションが中心となりますが、日本では、遊びそのものが中心となる、という特徴があります。

ball 実際の遊戯療法
 通常は、遊戯療法専門の部屋(プレイルーム)があり、そのなかには、さまざまなおもちゃや遊具が用意されています。子供は、治療者との関係に守られながら、自由に遊びます。遊びを通して、自分自身を表現していくわけですね。
 治療者は、受容的な態度で見守ったり、一緒に遊んだりしながら、子供の心が開かれるように気を配ります。そして、心の問題が遊びを通して、どのような形であっても表現されることで、子供の人格が統合されていきます
 これが治癒となるわけですね。






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